きみの部屋に初めて事前の同意を得てお泊りした夜、ある程度予想していたことなのだけど、きみは随分と、えーと、どう言ったらいいのかな。独占欲の強いタイプみたいだね。これは寝相が悪いってことじゃないよね?一晩中、手や足をひっきりなしに乗せられて、私は少し笑ってしまったよ。そんなに押さえ込んでなくても大丈夫。夜のうちにどこかへいったりしないからね。誰がするもんか、そんなもったいないこと。
結局よく眠れなくて私は朝寝坊をした。日がすっかり昇ってから目を覚ますと、きみは隣にいなくてベッドのきみの場所はとっくに冷たくなっていて、私はなんだか寂しくなってしまったのだけれど、その寂しさは寝室のドアから顔をのぞかせたきみの妙な顔つきに吹っ飛んでしまったさ。きみが私の目覚めを確認してほどなく、キッチンからふつふつした音といい匂いが漂ってきた。卵を焼く匂いだ。スクランブルかな?目玉焼きなら私の好みはサニーサイドアップ。覚えていてくれてるかな?
覚えていてくれたどころではなかった。わーお。フル・イングリシュブレッククファスト, with bacon, sausage, black pudding, eggs, hashbrowns, mushrooms, beans, grilled tomato and toast...
きみはBed Breakfast Trayをベッドにおいて腰掛け、ポットから熱いカップに紅茶を注ぎながら、「どーだえっへん」という顔をして見せた。あのねえ、ほんとのこと言うと、私はこういう脂っこいものは食べないんだよ。でもきみの顔みてるとそんなことは言えないよね。焼きトマトと目玉焼きぐらいは頂こうかな。それとお茶。私はカップから立ち上る湯気を眺めるふりをした。だってきみの顔を見ると、どうしようもなくにやけちゃうからね。
「きみは?」
「とっくに食った。おれは朝は熱いものは食わん。」
「お茶は?」
「コーヒー党だ。」
「そうじゃなくて、一緒に飲まない?」
「おれはベッドで飲み食いをするような自堕落な真似はせん。」
「じゃあ私は?」
「退廃した変態貴族だけには特別に許可する。」
もう我慢できなかった。にやけた。にー。にまっ。むー。少佐は、私がトマトをつついたり目玉焼きをかき混ぜたりしている間中、隣に座って私の巻き毛をくるくるしていた。ねえねえ子供のころのきみって、捕まえた蝶の世話をしようといじりまわして、羽根をぼろぼろにしちゃうタイプだった?
「ごちそうさま。今日の予定は?」
「屋敷へ顔を出す。あまり変な服を着るなよ。」
「きみと出かけることを考えて、おとなしい服を持ってきたつもりだけど、どうかな?」
少佐は私の着替えをざっと見て、フンと鼻を鳴らした。合格だ。そういう意味だよね?なら、どうして君のシャツを出してくるのかな。
「今日はこれだ。」
「きみの服を着てきみの屋敷に行くって、どういうことさ。」
「着せてやるからベッドから出ろ。」
「きみんちの執事って、きみのワードローブを把握してるんじゃないの。」
「執事はな。ほかの使用人はどうかおれは知らんな。」
ふーん。またしても込みあがってきた笑みを隠せていたかどうか、自分でも自信がない。私はベッドから下りて下着を身に着けた。朝食のトレイをキッチンに置いて戻った少佐が、私の体中を点検した。それって夕べもやったよね。他の男の痕なんかついてないよ。痕がついてたとしたら、それは夕べのきみがワイルドすぎたからさ。ごめんよ、きみの体にはいっぱい残しちゃったね。
それからなんとも驚いたことに、少佐は私にシャツを着せてズボンを穿かせ、シャツのボタンを下からゆっくりとひとつずつ留めあげた。次に前から胴体を抱くようにしてシャツのすそをズボンの中にきっちりと押し込み、ウエストのボタンを留めて前のファスナーをあげた。最後に襟を直し、袖口のボタンを片方づつ留めてくれて、私の身支度は終わった。確かに気持ちよくてうっとりしたんだけど、あまりに手馴れて行き届いた世話のやき方に、私の疑惑がふいと鎌首をもたげた。ひょっとして私より以前に、誰かにこんなことをしてあげてた?考えただけでいきなり頭に血が上ったさ。奥手なふりして、なんだよ、それ!
「きみ、なんか物慣れすぎてないかい?」
ちょっと尖った口調で問い詰めたら、意外な答えが返ってきた。
「新兵の最初の一年目に毎晩やらされとった。おれについた上官の命令でな。」
「えー!もうとっくに誰かに食われてたのきみ?!」
「ばかもん!あきらかな嫌がらせだ。おれが無視して完璧に勤めあげとっただけだ!」
嫌がるきみにしつこく食い下がって、詳細を吐き出させた。なになに、新兵のころに嫌な指導上官に付いたと。身の回りの世話をする係に指名された?もちろん嫌で嫌でしかたがなかったが、軍隊とは上命下達の社会だ。新兵は誰にも逆らえない。 毎日いやいや上官の世話をしていたと。なかでもこの着替えの世話が一番嫌な業務だったが、嫌がっていることを知られたら負けだと考えて、毎日無表情で完璧に勤め上げていたと。2メートル近い巨躯の上官はある日調子に乗って新兵の手を取り、自分の前を探らせた。もちろんそこには隆々とした…。息を呑むような巨根だった。逃げるか殴りかかるか一瞬だけ迷った隙をつき、上官は黒髪の新兵を強引に床に押し倒した。部隊のどの軍曹も欲しがったが腕に物を言わせて自分担当に分捕った新兵の、可憐な緑の瞳が暗さを増して驚愕と恐怖を浮かべて見上げていた。生意気な奴ほど折れると弱い。思い知らせてやる。泣かせてやる。ひいひい言わせてやる。自分の前を小僧っ子の前に当ててぐりぐりとこすり合わせてやると、縮み上がっていた小僧っ子のものが布越しに微かに反応するのが感じられた。小僧っ子は自分の体の反応に信じられないという表情を浮かべ、ずりあがって逃げようとした。だがその手首をがっしり押さえ込んで腰を使い続けた。小僧っ子の顔が次第に上気し、抵抗が次第に弱まり始めた。ああっ、新兵時代の花も恥らうクラウス青年の純潔、絶体絶命の危機…
「おまえ、なんて嫌らしい目つきになっとるんだ。頭の中で妄想の枝葉を広げとらんか?」
「いや、ちょっとね。はは。」
こんど二人で軍服を着て、そういうプレイをしてみよう。もちろん私が上官役だ。決して逆らわないように、この新兵くんにはよく言い聞かせておかなくては。
「軍隊って、そういう命令が普通にあるのかな?」
「普通じゃないにきまっとるだろうが。おれは結局、けつを触ってきやがったその上官を殴り飛ばして懲罰会議送りになった。」
「それでどうなったんだい?」
「匿名の証言が何件かあって、最終的に除隊になったのは上官の方だ。」
「ふぅん…。ねえ少佐、これからもこうしてくれるなら、ひとつだけリクエストしてもいいかな?」
「なんだ?」
「私のポジションは左なんだ。右じゃなくて左。だからね、」
私は少佐の手を導いた。
「穿かせてくれるときに右じゃなくて左の方に納まるように、ここをこういう風に…」
「こうか?」
「そう、そうなんだけど…、あっ…」
「納まらんぞ。」
少佐は意地悪く笑った。きみは時々すごーく上手だ。優しさと意地悪のさじ加減がたまらない。今、意地悪スイッチが入ったね? 際限なく反応しちゃう私の体のほうもどうかと思わないでもないけどね!
「そんなふうにされたら、納まるものも納まらないよ。…もう、だめだよ…。」
「一度脱がせて最初からやりなおしだな。」
「遅刻しちゃうよ。」
「手早くしてやるからさっさといけ。」
「ひどいな。」
ん、んんん…。
目が覚めた。
* * *
身支度を終えた少佐がベッドに座り、ブランケットに腕を入れて私の体を触っていた。
「今きみ、私にいたずらしてなかったかい?」
「しとった。眠ったままいい声を出されて、ちょっと恥ずかしくなっとったとこだ。」
いいよ。許すよ。きみだし。私も恥ずかしいけどね。
「今日の予定は?」
「屋敷へ帰って庭の手入れだ。薔薇がぐだぐだになっとる。そのためにお前を呼んだんだ。服はそれを着ろ。」
色気もへちまもない、少佐の作業着ふうの服が出してあった。ま、それでもとにかくきみの服だ。
「服を着せてくれないのかい?」
「何を寝言ほざいとるんだ?」
少佐のしかめっ面を見ていると、ため息の代わりに笑い声が出た。幸せすぎて死にそうだよ、大好きなきみ。一応のお約束で、少佐の作業着の匂いをくんくん嗅いで少佐に軽く殴られてから、私は着替えを始めた。きみの屋敷に泊まっちゃう日ももうすぐなのかな。その次はひょっとしてお父上にご紹介? 外堀がだんだん埋まっていくきみの内側から、どんどん知らないきみが見えてくる気がするな。今キッチンに行ったら、きみお手製のフル・イングリシュブレッククファストが私を待ってたりしてね。だっていい匂いがするんだもの。
END
-----
夢落ち。村雨さんとこに書いたコメントをリライトしてて、加筆しているうちにちょっと(わが身が)情けなくなってきたので。
0 件のコメント:
コメントを投稿