このサイトでは、「エロイカより愛をこめて(From Eroica with Love)」を題材とした、英語での厖大な二次創作群を翻訳しています。サイト管理者には原作者の著作権を侵害する意図は全く無く、またこのサイトにより金銭的な利益を享受するものでもありません。私が享受するのは、Guilty Pleasure - 疚しい楽しみ-だけです。「エ ロイカより愛をこめて」は青池保子氏による漫画作品であり、著作権は青池氏に帰属します。私たちファンはおのおのが、登場人物たちが自分のものだったらいいなと夢想 していますが、残念ながらそうではありません。ただ美しい夢をお借りしているのみです。

2011/11/08

断片03 爆弾





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カーテンを開き、休日着にしてはかっちりとしたカーキのシャツの袖のボタンを留めながら、少佐はベッドに声を掛けた。

「いつまでもいぎたなく寝とらんでさっさと服を着ろ。朝メシに出掛けるぞ。」

「まぶし…。こんな時間からいっしょに出掛けたりすると、誰かに見られちゃうかもしれないよ。きみ、困るんじゃないか?」

伯爵は優雅な伸びをしながらも、そのまま寝そべったままだった。少佐はそちらを見ないままで続けた。

「いまさら何を言っとるんだ?世界中の諜報機関にあるおまえのファイルに、なにが書かれとるか知らんのか。」

「インターポール以外にも私のファイルはあるのかい?」

「たいていのところにはあるようだな。おれが見たのはNATO, KGB, SIS, CIA, EU各国…」

「何が書いてあるのかな。私の本業にさしつかえるようなことだったら困るんだけど。」

少佐はなんとも形容しがたい顔つきで伯爵を見下ろし、最初の爆弾を落とした。

「どのファイルの内容も似たり寄ったりだな。『表の顔は英国の世襲貴族にして、裏の顔は美術窃盗犯エロイカ。 かつ、NATOボン支部所属のクラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐の長年の愛人』、だ。」

伯爵はぽかんと口をあけた。重そうな金髪がいっぺんに逆立った。少佐は少し面白そうな顔になり、シーツから飛び起きた一糸まとわぬ姿の伯爵を見下ろしたがすぐに目をそらした。

「めでたいやつだな。本当に知らなかったのか?」

「ちょっと待ってくれよ!いまきみが言った中に、NATOも含まれてなかったかい!?」

「ああ、そうだ。」

「NATOのファイルにもそう書かれてるってこと!?」

「その通りだ。」

「きみ、それ…、それ…、抗議しなかったの?」

煙草に火をつけるかどうか少し迷い、朝食までは控えようかとシャツのポケットに煙草の箱を落とし込むだけに留めた。それからクローゼットを開けて、この目立ちすぎる金髪巻き毛に何を着せれば少しでも目立たなくなるかと考え、すぐにその考えをあきらめた。

「おれにはアクセス権はあるが内容を改変する権利はないし、どこのどいつが編修しとるのかも機密だ。お手上げだ。」

「それって、きみ、すごく困っただろ?」

「もっと困ったことがある。」少佐は次の爆弾に言及することにした。

「なにが?」

「おまえのファイルの内容は、おれのファイルにもリンクしとるんだ。」

「はぁ?」

「『長年にわたる協力者であるドリアン・レッド・グローリア伯爵と愛人関係にある。グローリア伯爵については関連ファイルを参照のこと。』とある。初めて見たときは我が目を疑ったぞ。」

「ええええええー!!!」

爆弾は思ったとおりの衝撃を脳天気な風船野郎に与えたようだった。少佐はひそかに意味のない満足を覚え、それから昨日とほぼ同じプレーンな白いシャツ、ただし明らかに休日用でコットンリネンの少し大きめのものをベッドへ放ってやった。伯爵は無意識のままに手を伸ばして受け取り、シャツに顔をうずめて息をいっぱいに吸い込んだ。少佐は少しだけ顔をしかめた。変態め。

「どのくらい『困ったこと』になったか教えてやろうか。おれはNATOプロパーではなく、ドイツ陸軍からの出向組だ。だかファイルにこの情報が載った瞬間、帰任の望みは失せた。おれはもう一生戦車には乗れん。」

「…こないだ私の国で乗ってたじゃないか!」

「おれが返品された表向きの理由は誘拐事件に手を挟んだ件だが、裏の理由はおまえとのスキャンダルだ。表沙汰にしたくないどこやらから、圧力がかかったそうだ。」

これも爆弾だったが、まだ最後の一発ではない。

「でっ、でもあのときは私たちはまだなにも…。」伯爵はシャツに袖を通し、前を閉じながら慌てて抗議した。

「誰のせいでおれの人生が大きく狂ったか、よく考えてもらいたいもんだな。」

シャツのボタンを閉じ、袖を巻き上げた伯爵は口をへの字にし、それから下を向いて両手の指を絡ませた。

「今さら泣き真似しても、もう信じんぞ。」

「ちぇっ、泣いてないけどさ、そのファイルのアクセス権って、誰にでもあるのかい?」

「おれのファイルにアクセスできるのは部下の中ではAだけだ。だがおまえのファイルはほぼ全員が閲覧可だ。」

「そんな…、みんな信じちゃうじゃないか!」

「信じとるんだ。」

それが最後の爆弾だった。

「Zを除く全員が信じとるんだ。おれの前で口に出さんだけだ。」


* * *


毒気を抜かれた伯爵がおとなしく身支度をして(←今朝はアンダーパンツも借りた)、まだ肌寒い春のオープンカフェでブランチに揚げたイモをがしがし喰らう少佐の向かいで目をぱちくりさせながらコーヒーを飲み、幸せだけど全然ロマンティックじゃないなあなどと余計なことを考えているところを目撃したのがB先輩とZくんである。無神経に「あ、少佐だ。今日は伯爵といっしょか。」と口に出すB。激しい衝撃を受けるZ。今の今まで信じていなかったが、エロイカが着ているあのシャツは間違いなく少佐のオフの日のシャツだ…。「今日は少佐が休みだから気楽だよなあ。オフィスに戻る前に昼メシ食おうぜ。」と無邪気に話しかけるB先輩を尻目に、Zは路地の壁に額をあてて激しく葛藤するのだった。

「チャンスがあるんだったら迫ればよかった…。今からでも遅くないんだろうか、ぼく…」



おしまい

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