by Margaret Price
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任務には非常に厳しい時間制約があったが、内容自体は比較的単純だった。機密書類の受け渡しのために借り上げられた、豪邸でのパーティに参加する。エロイ カは事前にアレンジされた運び屋が到着する前に書類を盗みとる。任務はこれまでのところ、部長がエロイカに参加を説得できたところまでは進展していた。
少佐は事態がさほど複雑だとは思っていなかったが、部下とともに現場に 到着して始めて、これはやっかいだと気が付いた。パーティには大勢の上流階級 たち、政府高官、そしてスパイが顔を出しており、あちこちで社交上の折衝が始 まっていた。各国の諜報部員が少佐を知っているのは間違いなかった。少佐の従妹のクローディア・パーシモンは、今日は喉頭炎のせいでウシガエルのような声 しか出ないんだと紹介されても誰の注意も引かないほど、伯爵が自分に施した変身ぶりがたいした出来であることに少佐はすぐに気が付いた。
グローリア伯爵は、ミズ・パーシモンのエスコートを完璧にこなしていた。伯爵は彼女を多くの出席者たちに紹介して回ったが、そのほとんどはすでに少佐と面識があった。パーティのホストがついに登場したとき、少佐は彼の腕をつかむ少佐の手に、やや警戒深げな力がこめられたのを感じた。
「あの男だ。」伯爵は、マイクロフォンの声を拾ってどこかで聞いているはずの 部下たちと、少佐の双方に向かってそっと告げた。「階段の横にいる、金の服を着てルイ14世みたいな扮装をしている男だよ。」
伯爵の声の鋭さが、少佐の脳内の警報を鳴らした。伯爵の視線を追うと、それは 誇張でもなんでもなかった。その男の金色でない部分といえば、髪粉をつけたかつらだけだった。
「ウォルター・フランシス・フィッツロイ閣下だよ。」伯爵は低い声で続け、それから小さく鼻を鳴らした。「きみは私のことをもったいぶりの馬鹿だって思っ てるけど、少佐。今夜のホストはこうさ。彼の名はウォルター・ローリー卿と フランシス・ベーコンから取っていて、姓の方は彼が王の非嫡出系の子孫であるこ とを意味している、そう言ってるんだよ。」伯爵は振り向いて、その男をじっと 見ている少佐の興味津々の視線を見つめた。「真相は、彼はその称号を得るため だけに、人口約百人ぐらいの村をひとつ買ったんだ。彼の本名はカドワラダー・ フランクリンだ・・・最後のひとことは本当だね。」伯爵は視線を話題 の本人に戻した。今日のホストは彼ら二人を目にとめて、込み合った人々を押し 分けてこちらに歩み寄ってこようとしていた。「彼は本物のごろつきだ。」
これは少佐から面白そうなしわがれ声を引き出すに十分だった。伯爵がこんな風にはっきりと他人に対する軽蔑を示すことはめったになかった。特に、今日のホ ストのように見栄えのよい相手に対しては。なにか理由があるのだろうかと勘繰 らずにはいられなかった。この二人の間に、おれが知らんなにかの過去でもある のか?この考えが頭をよぎるなり、嫉妬のうねりが彼を震わせた。彼はじろりと横目で伯爵を見た。伯爵は来るべき紹介に備えていた。どっちにしろ終わっとる話だ。なぜ嫉妬を感じねばならんのだ?
少佐の思考はすぐに切り替わった。今夜のホストであり、任務のターゲットである男が挨拶のために近づいてきたからだった。彼は自分を伯爵と同じような恵ま れた血統の出身に見せかけようとしていたが、少佐に言わせれば二流の俳優が貴族を演じているに過ぎず、しかも惨めに失敗していた。言葉遣いにも身のこなしにも無理があった。伯爵の気品は生まれつきで、努力によるものではない。少佐 は内心で伯爵の論評に同意した。このフィッツロイとやらはもったいぶりの馬鹿 にまちがいない。
お互いの紹介が行われ、フィッツロイはにっこりと微笑んだ。「おお、残念なこ とですね。」彼は喉頭炎のミズ・パーシモンを慰めた。「今日はみなさんのおしゃべりを聞く一方だとは。ご自身でも腹立たしいことでしょうね。」
伯爵にひじで一突きされ、こういうときは目を伏せるものだと女装姿の少佐はやっと思い出した。手の甲にキスを受ける間、彼は歯を食いしばった。後で消毒液で手を洗わねばならない。
「立ち入った質問を許してくれたまえ、グロリア、古い友人よ。」フィッツロイは伯爵に向き直った。「しかし、きみが女性を伴って現れるとは、私は全く予 想していなかったよ。きっと他の皆さんも同じだと思うが。私はきみがすごくマッチョで軍人タイプの男と付き合っていると聞いたんだが、そういうのはきみ のタイプじゃないよね?きみはもっとこう、綺麗でふわふわしたのが好きだったはずだが?」
伯爵は瞬き一つしなかった。「実のところ、いま付き合っている相手はいないん だよ、ウォーリー。」彼は相手が気安いあだ名で呼ばれて苛立った表情になった ことに気づかない振りをした。」「このあいだまで愛人だった男は、単に軍人タ イプというだけじゃなくて、こちらのミズ・パーシモンの従兄弟だったんだ。彼女も最近 ひとりになったばかりで、パリでは友人もいないというから、お連れしたのさ。 夜の集まりは彼女にとっても楽しいだろうと思って、いっしょに来てもらったん だよ。ここには決まった相手のいないハンサムがたくさんいるし、だから当然・・・」つま先を少佐の靴のかかとで押しつぶされ、伯爵は語尾を濁した。
フィッツロイは輝くような笑みをうかべ、"クローディア嬢"へ向き直った。彼女 は視線を上げて微笑みつつ、伯爵の腕に腰を回して、彼が足の下から逃げられな いように押さえつけていた。
「ああ、ということはきみたちがここへ来たのは...おやおや、かわいそうに。」今夜のホストは続けた。じゃあおふたりを応援せねばなるまいね。」
(貴様を射撃訓練にでも利用させてもらおうか。この気取ったろくでなしめ。) 少佐は考えた。
「ウォーリー、これってほんとにきみらしいよね。」伯爵は意地悪く言った。 「パーティーひとつ開くのにわざわざパリくんだりまでやってきてさ、ルイ太陽王の扮装までして、それで参加者には英語を話すように言うんだ。それもみんな、きみがフランス語を学ぶなんて面倒をしたことがないからさ。」
フィッツロイは努力して微笑んでみせた。そしてすぐに他のゲストを迎えるため に離れていった。
少佐は伯爵の勝ちだなと内心で認めた。それから彼はまだ伯爵の腰に手を回して いたという事実を利用して、急いで階上の部屋に隠れに行くよう指示した。
これは間違いであったことがすぐに判明した。少佐は、長くなる一方のリストに、さらに 項目を一つ付け加えることになったのだ。そのリストのタイトルは「難航が予想される任務を、さらに悪化させる行動」というリストであった。
* * *
「次は飲み物だよね。」夜の催し物のが行われると思しき部屋に入ると、伯爵 が言った。 彼はわずかに脇に寄り、腕を差し出した。「私の腕を取って、おしとやかに見えるようにしてくれ。」彼は低い声で言った。返事は少佐の返事は殺 意のある視線だった。「ちゃんとやらないと、きみの大事な情報を持った運び屋 が到着する前に、ここをうろうろできなくなるよ。」
少佐はこの主張には逆らえなかった。彼はしぶしぶと差し出された腕を取り、ドアの近くの目立たない場所にバーを配置することを決めた誰かに、黙って感謝した。
「こんばんは。」バーテンダーは愛想よく言った。「お客様とそちらのレイディ に、何をご用意させていただきましょうか?」
伯爵はカウンターの向こう側の若い男にまぶしい笑顔を向け、自分用の飲み物と喉を痛めているミズ・パーシモンのためにトニックウォーターを注文した。それ から彼らはそこを離れて、書類が隠されているはずの場所を特定しようと試みたが、呼び止められた。
「こらっ!この恥さらしめ!立派な紳士のパーティに顔など出しおってて、大英帝国の栄光を辱める気だな!」
「うわ、かんべんしてくれ・・・」伯爵はうめき、少佐といっしょに振り返ってそ の声の方角を見た。
「SISのチャールズローレンスだ。」と、わかり切った顔がわかり切ったことを 述べた。「そしておまえは・・・」
「今夜の主人の古い友人だよ。」伯爵は短くさえぎった。「ミスタ・ロレン ス、こちらの’クローディア・パーシモン嬢を紹介させてくれるかい?」彼はわざと声を低 めて、すばやく付け加えた。「彼女はフォン・デム・エーベルバッハ少佐の従妹なんだ。」
ロレンスの顔がぱっと輝いたのを見て、少佐は任務終了後に伯爵をぶん殴るだけではなまぬるすぎると考え、どういう拷問を加えてやろうかとさまざまに考慮し始めた。
「少佐も来ているのかっ?」ロレンスは、すぐに部屋のあちこちを見回し、明るく訊ねた。
「残念だが答えはノーだ。」伯爵は手のひらをひらひらさせて答えた。「任務でもなけりゃ、パーティになんかくる男じゃないよ。私は遊びに来ているだけだ からね。」
「さすがプロだ。」ロレンスはため息を付いて賞賛し、例の通り周囲に向かって 気取ったたわごとを吐き始めた。「我々は彼から学ばねばならない。この二重スパイだらけの危険な世界と、上流社会のお祭り騒ぎとは相容れないものなのだ・・・」
クラウスは彼の目をぐるりと回し、うめいたが、それはカラスの鳴くような大声 になってしまった。
「おやおや、大丈夫かい?」
伯爵は自分の腕に添えられていた少佐の手を軽く撫でた。「クローディアは喉頭 炎にかかっているんだ。普段は愛らしい声がなんだけど、今日はね…。きみが今 が聞いた通りだ。」
同僚がロレンスを呼び戻しに来たため、彼らは退屈な会話をそこで打ち切った。 「ジェームズ・ボンドごっこは後だ。」同僚はそう言って、ロレンスを引きずっ ていった。明らかに、SISもフィッツロイに注目しているようだった。やつらも 資料を狙っているのかと、少佐は疑問に思った。
「神に感謝。」伯爵の呟きが少佐を現実に引き戻した。伯爵は部屋の中を見回し た。「少佐、外が真っ暗になる前に、館の外をざっと調べてくるよ。」と、彼は 静かに言った。「きみはこのあたりを見て回っていてくれたまえ。誰かがきみを よびとめたら、化粧室を探しているような振りをすればいい。誰もきみを気に留 めないよ。」
変装したクラウスは深く息をついた。女性に扮したままで取り残されたくないと 思っていることに、突然気がついたのだった。彼は髪をなでつける振りをして、 耳元の受信機を調整した。
「ああ、クローディア、きみなら大丈夫さ。」伯爵は横を通り過ぎたグループに 聞かせるためにわざと声を上げた。「どうして少しだけでも皆さんとお話しない んだい?」かれは声を低めた。「Aくん、聞こえるかい?」
「感度良好です、伯爵。」返事が返った。
「いいね。」
少佐は事態がさほど複雑だとは思っていなかったが、部下とともに現場に 到着して始めて、これはやっかいだと気が付いた。パーティには大勢の上流階級 たち、政府高官、そしてスパイが顔を出しており、あちこちで社交上の折衝が始 まっていた。各国の諜報部員が少佐を知っているのは間違いなかった。少佐の従妹のクローディア・パーシモンは、今日は喉頭炎のせいでウシガエルのような声 しか出ないんだと紹介されても誰の注意も引かないほど、伯爵が自分に施した変身ぶりがたいした出来であることに少佐はすぐに気が付いた。
グローリア伯爵は、ミズ・パーシモンのエスコートを完璧にこなしていた。伯爵は彼女を多くの出席者たちに紹介して回ったが、そのほとんどはすでに少佐と面識があった。パーティのホストがついに登場したとき、少佐は彼の腕をつかむ少佐の手に、やや警戒深げな力がこめられたのを感じた。
「あの男だ。」伯爵は、マイクロフォンの声を拾ってどこかで聞いているはずの 部下たちと、少佐の双方に向かってそっと告げた。「階段の横にいる、金の服を着てルイ14世みたいな扮装をしている男だよ。」
伯爵の声の鋭さが、少佐の脳内の警報を鳴らした。伯爵の視線を追うと、それは 誇張でもなんでもなかった。その男の金色でない部分といえば、髪粉をつけたかつらだけだった。
「ウォルター・フランシス・フィッツロイ閣下だよ。」伯爵は低い声で続け、それから小さく鼻を鳴らした。「きみは私のことをもったいぶりの馬鹿だって思っ てるけど、少佐。今夜のホストはこうさ。彼の名はウォルター・ローリー卿と フランシス・ベーコンから取っていて、姓の方は彼が王の非嫡出系の子孫であるこ とを意味している、そう言ってるんだよ。」伯爵は振り向いて、その男をじっと 見ている少佐の興味津々の視線を見つめた。「真相は、彼はその称号を得るため だけに、人口約百人ぐらいの村をひとつ買ったんだ。彼の本名はカドワラダー・ フランクリンだ・・・最後のひとことは本当だね。」伯爵は視線を話題 の本人に戻した。今日のホストは彼ら二人を目にとめて、込み合った人々を押し 分けてこちらに歩み寄ってこようとしていた。「彼は本物のごろつきだ。」
これは少佐から面白そうなしわがれ声を引き出すに十分だった。伯爵がこんな風にはっきりと他人に対する軽蔑を示すことはめったになかった。特に、今日のホ ストのように見栄えのよい相手に対しては。なにか理由があるのだろうかと勘繰 らずにはいられなかった。この二人の間に、おれが知らんなにかの過去でもある のか?この考えが頭をよぎるなり、嫉妬のうねりが彼を震わせた。彼はじろりと横目で伯爵を見た。伯爵は来るべき紹介に備えていた。どっちにしろ終わっとる話だ。なぜ嫉妬を感じねばならんのだ?
少佐の思考はすぐに切り替わった。今夜のホストであり、任務のターゲットである男が挨拶のために近づいてきたからだった。彼は自分を伯爵と同じような恵ま れた血統の出身に見せかけようとしていたが、少佐に言わせれば二流の俳優が貴族を演じているに過ぎず、しかも惨めに失敗していた。言葉遣いにも身のこなしにも無理があった。伯爵の気品は生まれつきで、努力によるものではない。少佐 は内心で伯爵の論評に同意した。このフィッツロイとやらはもったいぶりの馬鹿 にまちがいない。
お互いの紹介が行われ、フィッツロイはにっこりと微笑んだ。「おお、残念なこ とですね。」彼は喉頭炎のミズ・パーシモンを慰めた。「今日はみなさんのおしゃべりを聞く一方だとは。ご自身でも腹立たしいことでしょうね。」
伯爵にひじで一突きされ、こういうときは目を伏せるものだと女装姿の少佐はやっと思い出した。手の甲にキスを受ける間、彼は歯を食いしばった。後で消毒液で手を洗わねばならない。
「立ち入った質問を許してくれたまえ、グロリア、古い友人よ。」フィッツロイは伯爵に向き直った。「しかし、きみが女性を伴って現れるとは、私は全く予 想していなかったよ。きっと他の皆さんも同じだと思うが。私はきみがすごくマッチョで軍人タイプの男と付き合っていると聞いたんだが、そういうのはきみ のタイプじゃないよね?きみはもっとこう、綺麗でふわふわしたのが好きだったはずだが?」
伯爵は瞬き一つしなかった。「実のところ、いま付き合っている相手はいないん だよ、ウォーリー。」彼は相手が気安いあだ名で呼ばれて苛立った表情になった ことに気づかない振りをした。」「このあいだまで愛人だった男は、単に軍人タ イプというだけじゃなくて、こちらのミズ・パーシモンの従兄弟だったんだ。彼女も最近 ひとりになったばかりで、パリでは友人もいないというから、お連れしたのさ。 夜の集まりは彼女にとっても楽しいだろうと思って、いっしょに来てもらったん だよ。ここには決まった相手のいないハンサムがたくさんいるし、だから当然・・・」つま先を少佐の靴のかかとで押しつぶされ、伯爵は語尾を濁した。
フィッツロイは輝くような笑みをうかべ、"クローディア嬢"へ向き直った。彼女 は視線を上げて微笑みつつ、伯爵の腕に腰を回して、彼が足の下から逃げられな いように押さえつけていた。
「ああ、ということはきみたちがここへ来たのは...おやおや、かわいそうに。」今夜のホストは続けた。じゃあおふたりを応援せねばなるまいね。」
(貴様を射撃訓練にでも利用させてもらおうか。この気取ったろくでなしめ。) 少佐は考えた。
「ウォーリー、これってほんとにきみらしいよね。」伯爵は意地悪く言った。 「パーティーひとつ開くのにわざわざパリくんだりまでやってきてさ、ルイ太陽王の扮装までして、それで参加者には英語を話すように言うんだ。それもみんな、きみがフランス語を学ぶなんて面倒をしたことがないからさ。」
フィッツロイは努力して微笑んでみせた。そしてすぐに他のゲストを迎えるため に離れていった。
少佐は伯爵の勝ちだなと内心で認めた。それから彼はまだ伯爵の腰に手を回して いたという事実を利用して、急いで階上の部屋に隠れに行くよう指示した。
これは間違いであったことがすぐに判明した。少佐は、長くなる一方のリストに、さらに 項目を一つ付け加えることになったのだ。そのリストのタイトルは「難航が予想される任務を、さらに悪化させる行動」というリストであった。
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「次は飲み物だよね。」夜の催し物のが行われると思しき部屋に入ると、伯爵 が言った。 彼はわずかに脇に寄り、腕を差し出した。「私の腕を取って、おしとやかに見えるようにしてくれ。」彼は低い声で言った。返事は少佐の返事は殺 意のある視線だった。「ちゃんとやらないと、きみの大事な情報を持った運び屋 が到着する前に、ここをうろうろできなくなるよ。」
少佐はこの主張には逆らえなかった。彼はしぶしぶと差し出された腕を取り、ドアの近くの目立たない場所にバーを配置することを決めた誰かに、黙って感謝した。
「こんばんは。」バーテンダーは愛想よく言った。「お客様とそちらのレイディ に、何をご用意させていただきましょうか?」
伯爵はカウンターの向こう側の若い男にまぶしい笑顔を向け、自分用の飲み物と喉を痛めているミズ・パーシモンのためにトニックウォーターを注文した。それ から彼らはそこを離れて、書類が隠されているはずの場所を特定しようと試みたが、呼び止められた。
「こらっ!この恥さらしめ!立派な紳士のパーティに顔など出しおってて、大英帝国の栄光を辱める気だな!」
「うわ、かんべんしてくれ・・・」伯爵はうめき、少佐といっしょに振り返ってそ の声の方角を見た。
「SISのチャールズローレンスだ。」と、わかり切った顔がわかり切ったことを 述べた。「そしておまえは・・・」
「今夜の主人の古い友人だよ。」伯爵は短くさえぎった。「ミスタ・ロレン ス、こちらの’クローディア・パーシモン嬢を紹介させてくれるかい?」彼はわざと声を低 めて、すばやく付け加えた。「彼女はフォン・デム・エーベルバッハ少佐の従妹なんだ。」
ロレンスの顔がぱっと輝いたのを見て、少佐は任務終了後に伯爵をぶん殴るだけではなまぬるすぎると考え、どういう拷問を加えてやろうかとさまざまに考慮し始めた。
「少佐も来ているのかっ?」ロレンスは、すぐに部屋のあちこちを見回し、明るく訊ねた。
「残念だが答えはノーだ。」伯爵は手のひらをひらひらさせて答えた。「任務でもなけりゃ、パーティになんかくる男じゃないよ。私は遊びに来ているだけだ からね。」
クラウスは彼の目をぐるりと回し、うめいたが、それはカラスの鳴くような大声 になってしまった。
「おやおや、大丈夫かい?」
伯爵は自分の腕に添えられていた少佐の手を軽く撫でた。「クローディアは喉頭 炎にかかっているんだ。普段は愛らしい声がなんだけど、今日はね…。きみが今 が聞いた通りだ。」
同僚がロレンスを呼び戻しに来たため、彼らは退屈な会話をそこで打ち切った。 「ジェームズ・ボンドごっこは後だ。」同僚はそう言って、ロレンスを引きずっ ていった。明らかに、SISもフィッツロイに注目しているようだった。やつらも 資料を狙っているのかと、少佐は疑問に思った。
「神に感謝。」伯爵の呟きが少佐を現実に引き戻した。伯爵は部屋の中を見回し た。「少佐、外が真っ暗になる前に、館の外をざっと調べてくるよ。」と、彼は 静かに言った。「きみはこのあたりを見て回っていてくれたまえ。誰かがきみを よびとめたら、化粧室を探しているような振りをすればいい。誰もきみを気に留 めないよ。」
変装したクラウスは深く息をついた。女性に扮したままで取り残されたくないと 思っていることに、突然気がついたのだった。彼は髪をなでつける振りをして、 耳元の受信機を調整した。
「ああ、クローディア、きみなら大丈夫さ。」伯爵は横を通り過ぎたグループに 聞かせるためにわざと声を上げた。「どうして少しだけでも皆さんとお話しない んだい?」かれは声を低めた。「Aくん、聞こえるかい?」
「感度良好です、伯爵。」返事が返った。
「いいね。」
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