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2011/09/12

A Thousand Break-ups(2/7) Mission in Paris - by Margaret Price


A THOUSAND BREAK-UPS - Two: Mission in Paris
by Margaret Price
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AとBはお互いに顔を見合わせ、それから身を隠そうとしているボーナムを見つめた。部屋を横切りながら、少佐は伯爵をはじろりと睨みつけた。伯爵は黙ったまま腕を組み、むっつりした顔で睨み返した。そっちがその気なら、こっちだって・・・

「ほかに方法は無いと言っとるだろうが。」主はついに唸り声を上げた。
伯爵は、片方の髪をさっと肩の後ろへかき上げた。「私はきみのためにはもう二度と女装しないよ。」彼は横柄に言った。「おばさんみたいな服しか用意してないじゃないか。最近きみがそうさせてるんじゃないのかい。」

少佐のうなり声が大きくなった。「おまえなんぞ何を着たって、よぼよぼで死にかけの女王陛下の真似程度が落ちだぜ。どうつくろったって変わりばえなんぞせんだろうが!」それ以上続ける前に伯爵の平手打ちが飛び、少佐は唖然として黙り込んだ。

「ドイツの豚食い野郎!」伯爵は吐きすてた。「きみの部長が腰を低くして頼んできたことに感謝すべきだね!それと、NATOが気前よく支払ってくれることにね。そうでもなきゃ・・・」彼はドアの方へ向かってあごをしゃくったが、それ以上は続けなかった。言いたいことははっきりしていた。
少佐は、はっきり目に見えるような努力で自分自身を押さえつけた。「おれはそのくそったれなドレスは着ん。」食いしばった歯の間から言葉が洩れた。

「それはドレスじゃないよ、物知らず。そういうのはイブニングガウンって言うのさ。」

少佐は大きく鼻を鳴らし、腕を組んで背を向けた。それから荒れ狂う怒りを押さえ込むために、煙草に火をつけた。

「また煙草かい?」

「嫁みたいな口をきくな。」

伯爵は目を細めて彼を見たが、何も言わなかった。彼は問題の衣装を拾いあげ、広げてみた。「AくんとBくんには大きすぎだし、Gくんはくるぶしを捻挫してるんだろ。」

「あの馬鹿者はハイヒールで転びやがった。」少佐は振り向きもせずに吐き捨てた。

AとBがお互いを見てほっと安堵のため息を漏らしているあいだ、ボーナムはぼんやりとひげを撫でていた。 

伯爵は服を広げて検討した。「うーん・・・」彼は首を傾げて言った。「Zくんならいけるんじゃないかな・・・」

「だめだ!」少佐は振りかえった。「おまえがZにまとわりつくことは許さん!おまえはもうに十分におれの祖国をひっかきまわしとる!」彼は泥棒の手からドレスを奪い取った。そして伯爵を振り返る前に、嫌悪に満ちた目でそれをじっくり見つめた。

「任務のためとあらばなんだって、だったよね。」伯爵は嘲笑を浮かべて念押しした。

「おまえは本当に執念深く悪意に満ちた野郎だ。」
伯爵は金髪のひと房を指でくるくるともてあそびながら、無邪気な微笑を浮かべた。「きみが何を言いたいのかぜんぜん判らないね、少佐。」彼は陽気に言った。「その服、素敵な色だよ。きみによく似合うさ。とにかく、今度はきみが妻役を演じる番だよ。」

部屋の向こうの男性はこれを聞いて肩を震わせ始めた。AとBは、アラスカへ向かっている途中のほうが今よりまだマシなのではと考え、ボーナムはこれ以上この部屋にとどまるのと英仏海峡トンネルを歩いてイングランドに戻っるのとでは、どちらが安全かと悩んだ。彼らにとって救いだったのは、少佐は銃を取り出さなかったし、激怒の罵詈讒謗を爆発させることも無かった。彼はただ、隣の部屋へどかどかと移動する前に、さっさと着替えろと伯爵にも命じただけだった。

「ひげはきっちり剃るんだよ。」伯爵は呼びかけた。「それから、煙草の焼け焦げで穴を開けるんじゃないよ!」

「おまえののど元を掻っ切ってやる!」少佐は怒鳴り返し、ドアを後ろ手でドアをぴしゃりと閉めた。

伯爵は非難の意をこめて鼻を鳴らし、肩を落とすボーナムを連れて去った。

AとBは止めていた息を吹きかえした。

「今でどのくらいなんだ?」Bが低い声で尋ねた。

「二十九日目だよ。」彼は向こうのドアを見つめながら、同じように低い声で答えた。

二十九日たっても、いかなる種類の和解の兆しも見られなかった。たいていの場合、伯爵がその日のうちにささやかな譲歩をするのが普通なのだ。ところが今回はそれがなかった。実際のところ、彼らの仲たがいはこれまで以上にひどくなっていくように見えた。

* * *
伯爵がタキシードに着替えて戻ったとき、AとBはまだびくびくしながら指揮官の帰還を待っていた。彼らは、すでに少佐の自ら確認済みの監視装置をいじりまわして、忙しそうな振りをしていた。伯爵は部屋を横切りながら、テーブルのほうに向かってひらひらと手を振った。ボーナムは手に持っていたケースをテーブルに置き、それを開いた。それから彼は深く息をついた。
伯爵は腕時計を眺め、眉毛を上げた。そして唇の両端に小さな笑みを浮かべた。彼はドアの前へ行き、軽くノックした。それから「クローディア、愛するきみ。このままでは遅刻してしまうよ。」と、歌うように言った。

「くそったれが。」木のドアの向こうから、簡潔な返答が返った。

「少佐。」伯爵は声を低め、エージェントたちが今まで聞いたことのないような男性的なトーンでささやいた。「この任務を成功させたくば、我々は一時間以内に出発する必要があるな。女性が身支度に時間をかけるのは当然だが、パーティにすっかり遅れてしまうのはいけないなことだよ。この方法に突破口を開く可能性があるかもしれないと言ったのはきみだよね。今すぐそこから出てきたら、私がきみの準備を終わらせてあげるさ。それから我々は任務に出かけるんだよ。」

こちらの部屋にいるものには、少佐がどう答えたかは聞き取りにくかった。しかしその後、流れるように続いた呪いの言葉ははっきりと聞こえた。ドアが開き、たっぷりくるぶしまであるフルレングスの濃いグリーンの夜会用ドレスに身を包んだクラウスが現れた。彼は、片腕にショールを掛け、もう一方の手にローヒールの靴とイブニングバッグを持っていた。表情に、雷が轟いていた。エージェントたちの目はこれ以上ないほど開き、顎は開きすぎて落下した。

少佐は、畏敬の念に打たれて立ち尽くす部下達に、氷のように冷たい視線をくれた。「ひとことたりとも口をきくな。」伯爵がドレスの後ろのファスナーを上げるために背後に回ると、少佐の食いしばった歯の間からからうめき声が洩れた。

口など利けるはずもないまま、AとBが頭はうなずいた。手のひらで忍び笑いを隠そうとしたボーナムは、自分自身が少佐の視線を一身に浴びていることに気が付いた。彼は急いで部屋の向こう側、ドアの近くのAとBの陰に隠れた。

「ああ、なんてよく似合ってるんだ!」伯爵は猫なで声で褒めあげた。少佐は無愛想な顔つきで伯爵を見かえしただけだった。「Zくんを呼んで来て着替えさせる時間はまだあるけどね。」

「黙れ!」

「じゃあ、みんなを脅しまわるのはやめて、座るんだね。伯爵は少佐の腕を取り、テーブルの脇の椅子へ導いた。テーブルにはボーナムが準備したケースが置かれていた。「きみの髪型を整えるまで、じっとしておいで。」

少佐はペティコートの衣擦れの音とともに座って目を閉じ、伯爵が大喜びで髪型をいじり始めたのを感じて、心の中で数を100万ぐらいまで数え始めた。彼はそのケースに何が入っているか、わざわざ見るまでもなく知っていた。伯爵が巻き毛を飾り付けるのに使う、数々のがらくたども。彼はそれを充分すぎるほどよく知っていた。少佐は自分の長い黒髪が引っぱられ、ピンで留められている間、伯爵が何をしているのか見当もつかなかったが、黒髪の付け毛がふわりと広げられ、それが少佐の髪に当てられたところで、伯爵が何をしているのかがやっとわかった。

「あとどのくらいおれに恥をかかせれば気がすむんだ?」少佐は、付け毛を髪につけられながら訊ねた。

伯爵は忍び笑いを漏らしつつ、なにも答えてやらなかった。付け毛をいい場所に固定するのに忙しかった。髪留めをもうあといくつか、ぱちんぱちんと留めてから、伯爵は一歩退いて出来上がりを満足げに眺め、うなずいた。濃い緑色の瞳が、彼を憎々しげに見上げた。伯爵はそれを無視し、再びケースを開けた。「さて、次はアクセサリーとメイクアップだね、クローディア・・・」

少佐は沈黙したまま、屈辱に耐え続けた。宝石がちりばめられたネックレス - 間違いなく盗難品 - が、彼の首に掛けられた。伯爵はピアスを取り上げ、部下たちの驚きの視線を密かに楽しみつつ、少佐の髪をかき上げてピアスをつけた耳を表に出した。ピアス?少佐が!いつ開けたんだ?伯爵は後ろのねじを少し締めるのが見え、それがピアスではなくイヤリングだとわかったときに、部下は胸をなでおろした。

「おまえ、図に乗るなよ。」少佐はうなった。

「きみがピアスの穴を開けていれば、もっと簡単なんだけど。」伯爵はため息をついた。
少佐は彼を睨み続けた。「おまえは、おれが賭けに負けたと認めてほしいだけだと言ったぞ。そしておれは認めただろ。」

「ちゃんと念を押しとかなきゃ。」

「おれが言ったのは、連中をちょっと騙してやるだけ・・・いたっ!こらっ、ドリアン!あんまりきつく締めるな!」

「きみがもう一度言ったんだよ。どうやって賭けに勝ったか、あとでよく思い知らせてやるって。」

少佐の目が広がり、それから危険なまでに細められた。イヤリングが所定の位置に取り付けられるまで、彼は黙って過ごした。「くそっ、なんて重さだ!」彼はもう一方の耳にとりかかった相手を手で制した。「おれはこれは付けん。」

伯爵は口を開きかけ、そのまま黙って閉じた。せっかくここまで持ってきたのだから、イヤリングごときで台無しにしたくなかった。彼は、文句の付いたイヤリングをはずして、ティアドロップ型の小ぶりの真珠のペアを選びなおした。「じゃあ、こっちはどうかな?」 

少佐はそれを手にとって重さを量り、クリップを調べてから伯爵に返した。「よかろう。」返事というよりはうめき声に近かった。

イヤリングが取り付けられ、それから少佐の顔のくっきりしすぎた輪郭を柔らかくするためのメイクが軽く施された。次 に、香水についてのちょっとした言い争いが始まった。伯爵は使用を主張し、少佐は断固として拒否した。しかし伯爵は、少佐を女性に見せるためにはアフターシェーブの香りが残ったままでは変装は完成しないと指摘することにより、最終的に説得は成功した。その時点で、変身までにほぼ45分が経過 していた。伯爵は一歩下がり、邪まな笑みを浮かべた。少佐はかかとの低いパンプスに足を入れ、鏡で自分を見に行った。

「きみはすっかり『魅力的なクローディア』だよ。」伯爵は息を吐きながら言った。彼は部屋の隅で震え上がっている三人を見やった。この目で見たのではなったら、彼らは目の前で鏡に自分を映している女性が鉄のクラウス本人だとは、とても信じられなかっただろう。
少佐は腰に手をあて、たっぷり10秒ほど伯爵を見つめてからこう言った。「だからおれは貴様が大嫌いなんだ。」

「その言葉をそっくりきみに返すよ。」

AとBは顔を見合わせた。何をどういっていいかわからなかった。というより、なにか言って無事ですむものかどうかもわからなかった。彼らにわかっていたのは、少佐が部屋を横切ってずかずかと近づいてきたということだけだった。「ちゃんと確認は済ませたんだろうな。」彼は返事を要求した。

少佐の声が、大股でこちらに向かってくるその生き物から発せられ、悪寒が背骨を駆け降りる感じがした。彼らは受信機を耳にあててうなずくことしかできなかった。少佐が彼の手からそれを奪う前に、伯爵が割って入った。「だめだ!少佐、だめだよ。マニキュアが台無しになってしまう!」彼はそう叫び、少佐は凍りついたように動きを止めた。緑の目が激怒を浮かべ、彼の方を向いた。

「ほら、私が・・・」ドリアンは受信機を取り上げ、慎重に付け毛を動かして少佐の耳に入れた。それから自分の耳にも1つを入れた。彼はシルクの造花をとりあげて、マイクロフォンを仕込んだジャケットの襟に飾った。マイクは彼と少佐の会話を部下たちに伝えるのに、役立ってくれることだろう。少佐のマイクは、伯爵が留めてやったドレスのハイカラーの襟のブローチに仕込まれていた。

マニキュアが乾いたのを確かめた少佐は、伯爵の抗議を無視して受信機を調整した。今度は伯爵も茶々を入れなかった。装置はもう一度確認され、少佐は短く言った。「よし、これでいいだろう。」
伯爵は彼の腕に手を置いた。「待ってくれ。」

「どうした?」

「申し訳ないが少佐、これは...これはたぶんうまくいかないね。」

少佐は威嚇するように目を細めた。「もし今になって、これがすべておまえの嫌がらせだというつもりなら・・・」
伯爵は真剣に驚いたようだった。「きみの任務の真っ最中に?いくらなんでもそこまで馬鹿じゃないよ、私は。」

「ドリアン、俺の忍耐を試すようなマネはやめろ。」

伯爵は、手を挙げた。「休戦中だよ。」パーティーの最中にお互いを攻撃しあうなんてことはできないよね?」

少佐は深いため息をついた。残念ながら、その通りだった。「で、なにが言いたい?」

「女性らしい身のこなしについては教えてあげられるけど、声はどうしようもないね。」ドリアンはポケットから小さな袋を出し、薄いつるつるした植物の葉に見える何かを取り出した。「これを噛んでくれ。」

「何だ?」

「言わなきゃわからないかい?」

「警告しとくぞ。もしそれが・・・」

「ディフェンバキアだよ。観葉植物の一種だ。」ドリアンは当たり前のことのように続けた。「噛んでごらん。毒性はあるけれど、別に君が死ぬほどじゃない。声が数時間ほどおかしくなるだけさ。」

クラウスは、葉っぱの方から噛み付いてこないかと懸念しているような顔つきで、慎重にそれの裏表を調べた。「これでおれがヘリウムを吸ったような声になるんだとしたら・・・」

伯爵は天井を仰いだ。

クラウスは渋々その葉っぱを口に入れた。「うわ!なんだこりゃ!」

「まだ吐き出しちゃだめだよ!」ドリアンが命じ、少佐はひどい顔で見返した。「噛んで!」

少佐は表情を引き締め、最終的に吐き出す前さらに何度かその手ごわい葉っぱをかみ締めた。それから彼は咳こみ、焼けるように熱い口とのどを何とかするために『水をくれ』と言いかけた。だが彼の喉から出た音はひどいしわがれ声で、まともな言葉にはならなかった。彼はのどに手を当てた。喉が腫れあがり、すっかり閉じてしまったように感じられた。

「すばらしい!」伯爵は嬉しげにそう言い、立ちすくんでいる少佐にグラスの水を差し出した。「これで大丈夫。」
少佐にできたことといえば、目をいっぱいに見開いて立ち尽くし、口の中でもごもご言うだけだった。「おまえ、おれになにをした?」

「慌てないくていいよ、少佐。致死量には程遠いんだから。」伯爵はあっさり答えた。少佐は、視線に激怒をこめて伯爵を睨み付けながら、グラスを返した。「ディフェンバキアの別名は"Dumb Cane"だよ。声帯を麻痺させるんだ。」伯爵は空のグラスを受け取ってそれを置き、少佐の腕を取ってドアに向かおうとした。「残念なことに、一時的な作用なんだけどね。」と、彼はため息をついた。「パーティでは、誰も私の最愛のクローディアには話しかけてこないはずだよ。なにしろ喉頭炎で声を出せないからねえ。」
声が戻り次第浴びせかけてやるべきすべての呪いを頭の中で繰り返してから、少佐は伯爵に向かって殺意に満ちた顔を向けた。呪いで十分じゃないというなら、ドレスがどうのこうのにかかわらず、任務が終わり次第この決着をつけてやる。

「ついておいで、男の子たち」伯爵は手を振って、肩越しに呼んだ。「少佐のショールとハンドバッグを忘れないようにね!」

少佐がいかなる怒りの反撃もできないという事実にもかかわらず、AとBはそれでも身を縮めてお互いに顔を見合わせた。これでいいのか?少佐と伯爵は永遠によりを戻さないのか?彼らはふたりが腕を組んでホールをエレベーターのほうへ向かって歩むのを見つめた。

紳士服のエロイカと。イブニングドレスの鉄のクラウス。

ひどい夜になりそうだった。


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