このサイトでは、「エロイカより愛をこめて(From Eroica with Love)」を題材とした、英語での厖大な二次創作群を翻訳しています。サイト管理者には原作者の著作権を侵害する意図は全く無く、またこのサイトにより金銭的な利益を享受するものでもありません。私が享受するのは、Guilty Pleasure - 疚しい楽しみ-だけです。「エ ロイカより愛をこめて」は青池保子氏による漫画作品であり、著作権は青池氏に帰属します。私たちファンはおのおのが、登場人物たちが自分のものだったらいいなと夢想 していますが、残念ながらそうではありません。ただ美しい夢をお借りしているのみです。

2012/04/25

FEET OF CLAY 06 Chink In The Armor - by Margaret Price

 

 
Fried Potatoes com -  FEET OF CLAY  06 Chink In The Armor
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Chink In The Armor - 鎧の亀裂




AとZが戻ってきた時、少佐はエレベーターの近くの待合室へ向かっているところだった。自分たちが席をはずしている間に上官が心の平静を取り戻していることを確認し、Zは、胸をなでおろした。いつもどおりの気短な少佐にもどったように見えた。


「コーヒーをお持ちしました。」Zはそう言って、紙コップを手渡した。


少佐は黙ってそれを受け取り、待合室へ足を向けた。医師と看護師が病室にきたため、部屋を出たのだった。医師が状態を検査し、看護師は包帯を交換して伯爵を着替えさせた。クラウスは待合室の椅子に座り込み、きつく目を閉じた。部下たちから見ても、少佐は疲れ切っているように見えた。これまでの数えきれない任務の最中には、彼らは肉体の限界まで自己を駆り立ててゆく少佐しかみたことがなかった。


「よろしければ朝食もどうぞ。」Aがそう言い、手に持っていた紙袋を差し出した。少佐が黙って食事をとっているあいだ、Aは簡潔にその後の状況を報告した。Gの報告によれば、基地から派遣されたアメリカ人たちはGとほぼ同時に山荘に到着し、現地の警察と合同で調査を行なっているということだった。見たところ道屋やら脱走兵たちは、基地の外塀の一部を破壊した脱走のためのルートを残しており、基地関係者はこれまでにいくどかあった基地への不法侵入を彼らが手引きしていたのではないかと疑っていた。


空軍基地はNATOの施設を租借したものであったため、BがNATO側の担当者として彼らとコンタクトを取るのに何の問題もなかった。Aからボーナムに入れた連絡の返事はまだなかった。おっつけ連絡が来るのに間違いはない。イングランドはまだ夜明けにもなっていなかった。


Aが去ると、少佐とZは黙り込んだまま座っていた。少佐がとうとう口を開いた。「他の連中はエロイカがおれの山荘で何をしていたと思っとるんだ?」


Zはさっと顔を上げた。返答を帰す前に、様々感情が彼の眼の奥に点滅した。「A先輩が連絡してきた時には、あなたの山荘に何か悪戯か嫌がらせを仕掛けに入ったんだろうと推測していました。


クラウスは頷いた。「では、Gがおれのクローゼットにエロイカの着替えを見つけた時には?」クラウスはZの表情の変化に目を止めた。Zは驚いてさっと赤面し、すぐに何事もなかったかのような顔に戻った。この新米は良くしつけられていた。


「もしそうだとすれば、」Zはゆっくりと返事をした。「フィレンツェでやったような悪戯をまたやったんだなと思います。」


少佐は椅子に背を預けて目を閉じた。思い出が彼の頬をふと緩ませた。それは彼と伯爵が密かな恋人同士になるまえに起こった出来事で、少佐が泥棒を自分の人生から追い払おうと躍起になっていた頃のことだった。NATOは任務のためにエロイカと契約し、ある不幸な成り行きによって少佐は伯爵は同室をシェアするはめに陥った。エロイカはもちろんこの機会を十分に楽しみ、自分の身の回りの品を少佐の部屋のあちこちにばらまいた。少佐はあちこちで怒鳴り声を上げ、もう少しで伯爵を殺すところだった。伯爵を窓の外に放り出す代わりに、伯爵の身の回りの品を窓の外に投げ捨てることでその時は終わった。


「おれたちの仲を疑ったことはなかったのか?」クラウスはついにそう尋ねた。


「いえ、少佐。」


「おまえはとうとう鉄のクラウスの鎧にほころびを見つけたというわけだ。」


Zは椅子の中で居心地悪げに身じろぎをした。彼はすでに上官のありえない一面を目撃していた。彼がこれまで知っていた上官は私生活をひた隠しにし、私的な友人を持つことを極端なまでに避けていた。「ぼくがなにか申し上げるべきことでもありません、少佐。」


「くそっ、Z。おれだって聞きたくて聞いとるわけではない。」少佐は吠えた。


「僕だって同じです。」Zは反射的に答えた。彼は少佐のきつい目つきをしっかりと見つめ返した。「どのくらいになるんですか?」


クラウスは瞬きをし、突然反撃をよこした部下を怒りを込めて怒鳴りつけようとした。ちがう、これはおれが始めた話だ。「十年と三ヶ月だ。」


Zはぽかんと口を開けた。かれはせいぜい何ヶ月かという答えを予想していた。「少佐、だから私生活を明らかになさってなかったんですね。」彼はゆっくりとそう答え、視線を下げた。


「おれの言いたいことがわかるな、Z。」


「少佐。あなたのチームに配属されたとき、何かの間違いではないかと思いました。自分がNATO情報部で最高の情報将校の部下としてふさわしいとは思えなかったからです。アルファベットの一員となったその日からずっと、ぼくはあなたを尊敬し、賞賛しています。」 Zは視線をさっと上げ、自分を見つめている上官の目をひるまずに見つめ返した。「それは今でも変わっていません。いまここでサハラ砂漠を裸足で横断せよと命じられても、それは変わらないでしょう。」 Zが驚いたことに、少佐の唇の両端が微かに持ち上がり、微笑を形作った。


「礼を言うぞ、Z。」クラウスは穏やかに言った。それは部下をさらに驚かせた。少佐は視線を廊下へ逸らせた。




「少佐、ほかに誰が・・・」


「知っているか、とい意味か?」


Zはうなずいた。


「伯爵の部下のボーナムと、おれの執事だ。」クラウスは向き直り、若い部下のほうをじろりと見た。「そしておまえだ。今後はな。おれが把握している限り、知っているのはこの三人だけだ。」


三人目にうっかり見られるとはな。なんてザマだ。


「少佐。僕はあなたの信頼を裏切るつもりはありません。」


「いいだろう。ではここにいる間はエロイカの保護を頼んでいいか。」


「もちろんです。」


Zはやっと胸をなでおろした。チームの一員が病院に駆け込んだときに、少佐がすでに到着しているという状況は別に珍しいことでもなかった。初期調査と聞き取りを少佐自身が行うのが常であり、その後も負傷者の面倒を見るなどという仕事は部下たちに割り振るのが普通だった。


被害者がエロイカで、場所が少佐自身の山荘だったという事実が、少佐の眉を動かす程度には意外だったのかもしれなかった。そして犯人たちがNATOの施設から脱走した男たちだという事実が、少佐がこの問題に全面的にかかわるに値する理由を強化していた。


Zは、少佐がまぶたに手をやり、背もたれに体を預けたのに気づいた。少佐は明らかに疲れきっていた。肉体的にも、精神的にも。Zは咳払いをして少佐の注意を惹き、時計を見ながら言った。「半時間後に起こしましょうか、少佐?」






  

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