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Chapter Seven
Starting Over (仕切り直し)
「きみがなぜここを好きなのかよくわかるよ。ここは、そう・・・、静かで、全く誰もいない場所だよね。」山荘の裏の森を抜ける小道を、クラウスの後を追いながらドリアンはそう話しかけた。
クラウスはうなずいた。「もっとしょっちゅう来られればいいんだけどな。」小道を覆う緑の天蓋を見上げながら、彼はそう認めた。「街の喧騒からの、いい気分転換になる。」 背後のドリアンから何か物音が聞こえ、足を滑らせでもしたかとクラウスは振り向いた。だがそこには、」さっきキッチンにいたときと同じように自分を見つめているドリアンがいるだけだった。
「何だ?」
「何も。」ドリアンは首を振って言った。「きみを見てると驚きが尽きないだけだよ。」
いつもどおりの罵倒の言葉が舌先まで登ったが。、クラウスはそれを飲みこんだ。いや、伯爵は自分らしく振舞っているだけだ。ならば自分も同じようにすべきだ。「あの樹の向こうに湖があるはずだ。」彼は前を指差して言った。
数分後には、少佐の記憶に間違いのないことがわかった。彼らは森を抜けて、小さな湖を見下ろしていた。
「ああ、クラウス・・・」ドリアンは大きく息を吸った。「なんて素晴らしいんだろう。」彼は辺りの景色を見回した。視線が心地よさげな色を浮かべていた。「これが風景画なら、私のギャラリーにぜひ納めたいところだよ。」
クラウスは何も言わず、ただ煙草に火をつけてドリアンが歩き回るのを黙って見ていた。
「きみのお父上がここを好きだった理由が分かる気がするな。」
クラウスはうなずいた。「父は結婚したころ、よく母をつれてここにきていたと思う。」
ドリアンは体を翻してクラウスを見た。ドリアンの表情には驚きが浮かんでいた。彼は、クラウスが自分の私的なことに触れるとは思ってもいなかった。「きみは、お母さんのことを覚えているのかい?」かれはとっさに尋ねた。ドリアンは、クラウスの母はクラウスの幼いころに亡くなっているということしか知らなかった。
クラウスは首を振り、湖を見るために振り返った。彼の目には悲痛が浮かんでいて、ドリアンは彼を抱きしめたい思いに駆られた。「ごめんよ。聞くべきじゃなかった。」
「かまわん。」
ドリアンは視線をクラウスと同じ方向に向けた。「ずっとここにいたいな。」彼は満ち足りたため息をついた。
クラウスは体をひねって伯爵を見た。彼はこの場所の静けさと、ここに一人でいる孤独を愛してきた。この秘密の隠れ家を誰かと分かち合うことなど考えたこともなかったし、ましてやそれをエロイカとなどとは、思いも寄らないことだった。にもかかわらず、彼は今まさにそうしていたのだった。
ドリアンは少佐に向き直った。彼の表情は純粋な幸福に光り輝いていた。「ここに連れて来てくれてありがとう、クラウス。」深く考える間もなしに、ドリアンの感謝のキスがクラウスの頬を素早くかすめた。それからドリアンはしまったという表情を浮かべて凍りついた。「ああ、クラウス・・・」彼は体を離し、喘ぎながら手のひらで口元を覆った。「ちがうんだ、そういう意味じゃ・・・」
クラウスは込みあがってくる狼狽を抑えようと必死になっていた。平静を取り戻さねばならなかった。伯爵のキスにはなんらの性的な意味もないことは、彼にもよくわかっていた。彼は頭ではそれを理解しており、心理的にもそれを受け入れなければならなかった。さもなくな、一生そのままこういったことに向き合わずに、逃げ続けねばならないだろう。「おまえの言う意味はわかっとる。」彼は感情を表さずに言った。「気にしとらん。」
ドリアンは申し訳なさそうに彼を見た。「怒ってないのかい?」
「おれは・・・」クラウスは深いため息をついた。「おれにもわからん。」
じゃあ、これって一歩前進だ。ドリアンは湖に視線を戻しながらそう思った。ほどなく、遠くで雷鳴が聞こえた。二人は同時に空を見上げた。
「引き返したほうがよさそうだ。」クラウスが確信をこめていった。「帰り道は長いぞ。」彼はドリアンが残念そうにため息をついたのを聞きつけ、ちらりと相手の顔を見た。(また来たらいいじゃないか。) クラウスは危うくそう口を滑らせそうになった言葉をようやく押しとどめた。一体全体、おれはなにを考えているのか。このくそったれな馬鹿野郎を追い払おうとしていたのではなかったのか。くそっ!おれは気が狂ったにちがいない。
* * *
ふたりが山荘に戻ったころには、雨は本降りになっていた。彼らは玄関の雨よけの下に文字通り駆け込んだ。
「ふう。」ドリアンが息を弾ませた。濡れた髪を振ってしずくを撒き散らせた。「ちょっとした冒険みたいだったよ。」
「別に誰に狙撃されとったわけでもないぞ。」クラウスはびしょぬれのジャケットを脱ぎ、玄関脇に引っ掛けながらそう言った。
「でも、この雨はほんとに冷たいよ。」彼は腕をこすって体を暖めようとしながらそう言った。「朝はこんなに寒くなかったのに。」
「玄関先では寒いに決まっとる。入ろう。」
クラウスは、まっすぐ暖炉に向かったドリアンが震えているのに気が付いた。「肺炎になる前に、その濡れた服をとっとと脱げ。」その言葉が口から出た瞬間、彼は誰に向かって何を言ったのかようやく気付いた。
ドリアンは、クラウスがはっきりと体を強張らせて動きを止めたのを見た。彼は明らかに、ドリアンが性的な揶揄を込めた返事をするのを、身構えて待っていた。そんなえさには食いつかないよ。だって今日は完璧な日だったもの。「えーと、どういう意味に聞こえるかよく分かるんだけど、」ドリアンはゆっくりと口を開いた。「あのね、着替えを持ってきてないんだ。」
クラウスは彼のほうを見た。それから、伯爵がそもそも何をしにここへ来たかを思い出した。あれは本当に昨夜のことだったのか?彼はロフトに向かってあごをしゃくった。「二階のクローゼットの中に着替えがある。」
「感謝するよ、クラウス。木の床にしずくを落とさないようになるべく気をつけるよ。」ドリアンはそう言って、素早く二階に消えた。
「暖炉に火を入れるぞ。たぶん今夜は寒くなるからな。」クラウスは暖炉の前にひざまずき、煙道を開こうとした。数分後、クラウスは何やらつぶやきながらも、暖炉の風戸を開けて薪を積んでいた。伯爵が戻ったときには、火はぱちぱちと音を立ててはぜ始めていた。
「わぁ、すごくいい感じだね。」ドリアンはまだ雨粒を滴らせたままのクラウスのそばに立って、ため息をついた。彼はそのまま黙ってそこに立ち、それからクラウスのほうを向いて一言告げた。「きみに感謝するよ。」
クラウスは立ち上がり、振りかえった。「何のことだ?」
「すべてにだよ。私に機会を与えてくれたことに。私がここに、嫌がらせと乱暴だけのために来たわけじゃないと証明させてくれたことに。」ドリアンは、自分を見つめている緑の瞳の奥に何かの感情が激しく閃くのを見た。
「きみが好きだ、クラウス。」彼はそう言った。その言葉がすべてを台無しにしなければいいと、心の底から願いながら。
クラウスはドリアンを見つめ続けた。それから彼は片手を伸ばしてドリアンのうなじをとらえ、静かに抱き寄せて限りなく穏やかな口付けを与えた。ドリアンは動かなかった、動けなかった。息を忘れた。身動きひとつですら、この魔法を解いてしまうことを恐れた。
クラウスは背を逸らせて伯爵の顔を見た。「もう一度言ってくれ。」彼は静かに言った。
「きみが好きだ、クラウス。」その言葉はかすれていて、ささやき声とほとんど変わらなかった。
クラウスは深く息を吐いた。「ならばそれを見せてくれ。示してみせてくれ。」
ドリアンはその場でクラウスに襲い掛かり、押し倒し、貪り尽くしてしまいそうな自分をかろうじて抑えた。彼は少佐の手を引いて階段を登り、ベッドの前で足を止めた。クラウスの髪を滴る雨粒を見て微笑み、顔を濡らすしずくを手で拭き取った。それからキスを返した。とても優しく。ただ両手が濡れたシャツの上を這い回っていた。
クラウスは自分のシャツのボタンに手をかけたが、伯爵はわずかに首を振ってそれを止め、相手のボタンをゆっくりとはずし始めた。少佐が素肌の上にシャツを着ていたことに、伯爵は驚いた。シャツのすそを引き出し、優しい手がシャツの中に滑り込んで少佐の肩を愛撫しながら、シャツを彼の体から剥ぎ取った。シャツは濡れた音を立てて床に落ちた。
ドリアンはクラウスのベルトに手をかけた。クラウスが深い息を吐いているのを感じながら、自分も同様に息をこらえきれなかった。彼は顔をあげて硬くこわばった相手の顔を見上げ、もう一度、優しい口付けを与えた。無理強いはしないから。今夜は刃物なんか使わないさ。彼は下を向いてベルトをはずし、それから前のボタンとファスナーを緩めた。
クラウスの震える手がドリアンの腕を撫で始めたとき、彼は目を閉じてこらえることしかできなかった。体がとろけ落ちていってしまいそうだった。それから彼は、たった今の作業に集中しようと努めた。彼はクラウスの腰に手をかけて手をそっと差し入れ、下の服を床に落とした。
クラウスは靴とズボンを足首からはずし、それから目を閉じまま下着が剥ぎ取られるの感じていた。伯爵が彼のサイズに何か言うだろうと身構えていたが、伯爵は静かな愛撫を続けているだけだった。最後に靴下が脱がされ、彼は生まれたままの姿となった。
クラウスは、ドリアンの服を脱がせるべきなのか少し迷った。その答えは彼が相手の服に手をやったときに自然とわかった。ドリアンの服は、それがまるで自分の意思で落ちたかのように自然に床に落ちた。ほどなく、同じように生まれたままの姿のドリアンがクラウスの目の前にいた。そして両の手をクラウスの肌のあらゆる部分に滑らせ、穏やかなキスを繰り返していた。疑いようもなく力を持ち始めたものが自分の体に押し付けられているのを感じ、ドリアンはゆっくりとベッドに近づいた。クラウスはまだためらっていた。そこで何が、何のために起きようとしているのか、まだ確信が持てないままでいるのだった。だが手を引かれるままに、彼はただ従った。
ドリアンはベッドに横たわり、ベッドを軽く叩いて躊躇をみせたクラウスに横たわるよう促した。「緊張しないで。」彼は耳元でささやき、もう一度キスした。キスは喉元へ降り、それから胸へとすべり、ドリアンは相手の深呼吸の様子につい微笑まずにはいられなかった。クラウスは背筋をのけぞらせていた。ドリアンは背に手を差し入れて撫でた。それから髪に指をからめた。その触れ合いは、まだまだ性的な愛撫とは言えるものではなかった。
ドリアンが、クラウスが目を大きく見開いていることに気付いた。彼は感じ始めていた。ドリアンは彼をめちゃくちゃにしてやりたくてうずうずしたが、それでは実験が台無しになるのはわかりきっていた。それから彼は、クラウスが落ち着きを取り戻し始めたのを感じた。彼は、今起こりつつあることを受け入れたのだった。服を脱いだドリアンが隣に横たわっていてすら、彼にとって脅威にならないことを、ようやく理解しつつあった。
彼らは半時間ほどもそのままでいた。それからドリアンはささやいた。「もう少し・・・、いいかな?」
狼狽がクラウスの顔を横切った。もちろん彼は本能的に拒否を示しそうになったが、それでは実験の理由を否定してしまう・・・。彼は実験の成り行きを確認せねばならなかった。それゆえに、かれはうなずいて最悪の事態に備えようとした。「落ち着いて、体の力を抜いて・・・」彼のそばに横たわる温かく優しい生き物が、耳元でまたささやいた。
Starting Over (仕切り直し)
「きみがなぜここを好きなのかよくわかるよ。ここは、そう・・・、静かで、全く誰もいない場所だよね。」山荘の裏の森を抜ける小道を、クラウスの後を追いながらドリアンはそう話しかけた。
クラウスはうなずいた。「もっとしょっちゅう来られればいいんだけどな。」小道を覆う緑の天蓋を見上げながら、彼はそう認めた。「街の喧騒からの、いい気分転換になる。」 背後のドリアンから何か物音が聞こえ、足を滑らせでもしたかとクラウスは振り向いた。だがそこには、」さっきキッチンにいたときと同じように自分を見つめているドリアンがいるだけだった。
「何だ?」
「何も。」ドリアンは首を振って言った。「きみを見てると驚きが尽きないだけだよ。」
いつもどおりの罵倒の言葉が舌先まで登ったが。、クラウスはそれを飲みこんだ。いや、伯爵は自分らしく振舞っているだけだ。ならば自分も同じようにすべきだ。「あの樹の向こうに湖があるはずだ。」彼は前を指差して言った。
数分後には、少佐の記憶に間違いのないことがわかった。彼らは森を抜けて、小さな湖を見下ろしていた。
「ああ、クラウス・・・」ドリアンは大きく息を吸った。「なんて素晴らしいんだろう。」彼は辺りの景色を見回した。視線が心地よさげな色を浮かべていた。「これが風景画なら、私のギャラリーにぜひ納めたいところだよ。」
クラウスは何も言わず、ただ煙草に火をつけてドリアンが歩き回るのを黙って見ていた。
「きみのお父上がここを好きだった理由が分かる気がするな。」
クラウスはうなずいた。「父は結婚したころ、よく母をつれてここにきていたと思う。」
ドリアンは体を翻してクラウスを見た。ドリアンの表情には驚きが浮かんでいた。彼は、クラウスが自分の私的なことに触れるとは思ってもいなかった。「きみは、お母さんのことを覚えているのかい?」かれはとっさに尋ねた。ドリアンは、クラウスの母はクラウスの幼いころに亡くなっているということしか知らなかった。
クラウスは首を振り、湖を見るために振り返った。彼の目には悲痛が浮かんでいて、ドリアンは彼を抱きしめたい思いに駆られた。「ごめんよ。聞くべきじゃなかった。」
「かまわん。」
ドリアンは視線をクラウスと同じ方向に向けた。「ずっとここにいたいな。」彼は満ち足りたため息をついた。
クラウスは体をひねって伯爵を見た。彼はこの場所の静けさと、ここに一人でいる孤独を愛してきた。この秘密の隠れ家を誰かと分かち合うことなど考えたこともなかったし、ましてやそれをエロイカとなどとは、思いも寄らないことだった。にもかかわらず、彼は今まさにそうしていたのだった。
ドリアンは少佐に向き直った。彼の表情は純粋な幸福に光り輝いていた。「ここに連れて来てくれてありがとう、クラウス。」深く考える間もなしに、ドリアンの感謝のキスがクラウスの頬を素早くかすめた。それからドリアンはしまったという表情を浮かべて凍りついた。「ああ、クラウス・・・」彼は体を離し、喘ぎながら手のひらで口元を覆った。「ちがうんだ、そういう意味じゃ・・・」
クラウスは込みあがってくる狼狽を抑えようと必死になっていた。平静を取り戻さねばならなかった。伯爵のキスにはなんらの性的な意味もないことは、彼にもよくわかっていた。彼は頭ではそれを理解しており、心理的にもそれを受け入れなければならなかった。さもなくな、一生そのままこういったことに向き合わずに、逃げ続けねばならないだろう。「おまえの言う意味はわかっとる。」彼は感情を表さずに言った。「気にしとらん。」
ドリアンは申し訳なさそうに彼を見た。「怒ってないのかい?」
「おれは・・・」クラウスは深いため息をついた。「おれにもわからん。」
じゃあ、これって一歩前進だ。ドリアンは湖に視線を戻しながらそう思った。ほどなく、遠くで雷鳴が聞こえた。二人は同時に空を見上げた。
「引き返したほうがよさそうだ。」クラウスが確信をこめていった。「帰り道は長いぞ。」彼はドリアンが残念そうにため息をついたのを聞きつけ、ちらりと相手の顔を見た。(また来たらいいじゃないか。) クラウスは危うくそう口を滑らせそうになった言葉をようやく押しとどめた。一体全体、おれはなにを考えているのか。このくそったれな馬鹿野郎を追い払おうとしていたのではなかったのか。くそっ!おれは気が狂ったにちがいない。
* * *
ふたりが山荘に戻ったころには、雨は本降りになっていた。彼らは玄関の雨よけの下に文字通り駆け込んだ。
「ふう。」ドリアンが息を弾ませた。濡れた髪を振ってしずくを撒き散らせた。「ちょっとした冒険みたいだったよ。」
「別に誰に狙撃されとったわけでもないぞ。」クラウスはびしょぬれのジャケットを脱ぎ、玄関脇に引っ掛けながらそう言った。
「でも、この雨はほんとに冷たいよ。」彼は腕をこすって体を暖めようとしながらそう言った。「朝はこんなに寒くなかったのに。」
「玄関先では寒いに決まっとる。入ろう。」
クラウスは、まっすぐ暖炉に向かったドリアンが震えているのに気が付いた。「肺炎になる前に、その濡れた服をとっとと脱げ。」その言葉が口から出た瞬間、彼は誰に向かって何を言ったのかようやく気付いた。
ドリアンは、クラウスがはっきりと体を強張らせて動きを止めたのを見た。彼は明らかに、ドリアンが性的な揶揄を込めた返事をするのを、身構えて待っていた。そんなえさには食いつかないよ。だって今日は完璧な日だったもの。「えーと、どういう意味に聞こえるかよく分かるんだけど、」ドリアンはゆっくりと口を開いた。「あのね、着替えを持ってきてないんだ。」
クラウスは彼のほうを見た。それから、伯爵がそもそも何をしにここへ来たかを思い出した。あれは本当に昨夜のことだったのか?彼はロフトに向かってあごをしゃくった。「二階のクローゼットの中に着替えがある。」
「感謝するよ、クラウス。木の床にしずくを落とさないようになるべく気をつけるよ。」ドリアンはそう言って、素早く二階に消えた。
「暖炉に火を入れるぞ。たぶん今夜は寒くなるからな。」クラウスは暖炉の前にひざまずき、煙道を開こうとした。数分後、クラウスは何やらつぶやきながらも、暖炉の風戸を開けて薪を積んでいた。伯爵が戻ったときには、火はぱちぱちと音を立ててはぜ始めていた。
「わぁ、すごくいい感じだね。」ドリアンはまだ雨粒を滴らせたままのクラウスのそばに立って、ため息をついた。彼はそのまま黙ってそこに立ち、それからクラウスのほうを向いて一言告げた。「きみに感謝するよ。」
クラウスは立ち上がり、振りかえった。「何のことだ?」
「すべてにだよ。私に機会を与えてくれたことに。私がここに、嫌がらせと乱暴だけのために来たわけじゃないと証明させてくれたことに。」ドリアンは、自分を見つめている緑の瞳の奥に何かの感情が激しく閃くのを見た。
「きみが好きだ、クラウス。」彼はそう言った。その言葉がすべてを台無しにしなければいいと、心の底から願いながら。
クラウスはドリアンを見つめ続けた。それから彼は片手を伸ばしてドリアンのうなじをとらえ、静かに抱き寄せて限りなく穏やかな口付けを与えた。ドリアンは動かなかった、動けなかった。息を忘れた。身動きひとつですら、この魔法を解いてしまうことを恐れた。
クラウスは背を逸らせて伯爵の顔を見た。「もう一度言ってくれ。」彼は静かに言った。
「きみが好きだ、クラウス。」その言葉はかすれていて、ささやき声とほとんど変わらなかった。
クラウスは深く息を吐いた。「ならばそれを見せてくれ。示してみせてくれ。」
ドリアンはその場でクラウスに襲い掛かり、押し倒し、貪り尽くしてしまいそうな自分をかろうじて抑えた。彼は少佐の手を引いて階段を登り、ベッドの前で足を止めた。クラウスの髪を滴る雨粒を見て微笑み、顔を濡らすしずくを手で拭き取った。それからキスを返した。とても優しく。ただ両手が濡れたシャツの上を這い回っていた。
クラウスは自分のシャツのボタンに手をかけたが、伯爵はわずかに首を振ってそれを止め、相手のボタンをゆっくりとはずし始めた。少佐が素肌の上にシャツを着ていたことに、伯爵は驚いた。シャツのすそを引き出し、優しい手がシャツの中に滑り込んで少佐の肩を愛撫しながら、シャツを彼の体から剥ぎ取った。シャツは濡れた音を立てて床に落ちた。
ドリアンはクラウスのベルトに手をかけた。クラウスが深い息を吐いているのを感じながら、自分も同様に息をこらえきれなかった。彼は顔をあげて硬くこわばった相手の顔を見上げ、もう一度、優しい口付けを与えた。無理強いはしないから。今夜は刃物なんか使わないさ。彼は下を向いてベルトをはずし、それから前のボタンとファスナーを緩めた。
クラウスの震える手がドリアンの腕を撫で始めたとき、彼は目を閉じてこらえることしかできなかった。体がとろけ落ちていってしまいそうだった。それから彼は、たった今の作業に集中しようと努めた。彼はクラウスの腰に手をかけて手をそっと差し入れ、下の服を床に落とした。
クラウスは靴とズボンを足首からはずし、それから目を閉じまま下着が剥ぎ取られるの感じていた。伯爵が彼のサイズに何か言うだろうと身構えていたが、伯爵は静かな愛撫を続けているだけだった。最後に靴下が脱がされ、彼は生まれたままの姿となった。
クラウスは、ドリアンの服を脱がせるべきなのか少し迷った。その答えは彼が相手の服に手をやったときに自然とわかった。ドリアンの服は、それがまるで自分の意思で落ちたかのように自然に床に落ちた。ほどなく、同じように生まれたままの姿のドリアンがクラウスの目の前にいた。そして両の手をクラウスの肌のあらゆる部分に滑らせ、穏やかなキスを繰り返していた。疑いようもなく力を持ち始めたものが自分の体に押し付けられているのを感じ、ドリアンはゆっくりとベッドに近づいた。クラウスはまだためらっていた。そこで何が、何のために起きようとしているのか、まだ確信が持てないままでいるのだった。だが手を引かれるままに、彼はただ従った。
ドリアンはベッドに横たわり、ベッドを軽く叩いて躊躇をみせたクラウスに横たわるよう促した。「緊張しないで。」彼は耳元でささやき、もう一度キスした。キスは喉元へ降り、それから胸へとすべり、ドリアンは相手の深呼吸の様子につい微笑まずにはいられなかった。クラウスは背筋をのけぞらせていた。ドリアンは背に手を差し入れて撫でた。それから髪に指をからめた。その触れ合いは、まだまだ性的な愛撫とは言えるものではなかった。
ドリアンが、クラウスが目を大きく見開いていることに気付いた。彼は感じ始めていた。ドリアンは彼をめちゃくちゃにしてやりたくてうずうずしたが、それでは実験が台無しになるのはわかりきっていた。それから彼は、クラウスが落ち着きを取り戻し始めたのを感じた。彼は、今起こりつつあることを受け入れたのだった。服を脱いだドリアンが隣に横たわっていてすら、彼にとって脅威にならないことを、ようやく理解しつつあった。
彼らは半時間ほどもそのままでいた。それからドリアンはささやいた。「もう少し・・・、いいかな?」
狼狽がクラウスの顔を横切った。もちろん彼は本能的に拒否を示しそうになったが、それでは実験の理由を否定してしまう・・・。彼は実験の成り行きを確認せねばならなかった。それゆえに、かれはうなずいて最悪の事態に備えようとした。「落ち着いて、体の力を抜いて・・・」彼のそばに横たわる温かく優しい生き物が、耳元でまたささやいた。
ドリアンは体を起こして、潤滑剤の入っている箱を探した。彼はオイルの瓶を取り出し、そのいくらかを手のひらに落とし、クラウスの胸を撫で始めた。クラウスが大きく息を吸い、それから心地よさげなうめき声を上げたのを聞いて、ドリアンは微笑んだ。彼はそのオイルをクラウスの肌にすりこみ続け、次第にその手を下腹部へと移し、そしてとうとうクラウスの堂々たる持ち物を、そのオイルで滑らかな手のひらの中に納めるに至った。
ドリアンは、一度きりではなく安定した関係を持ちたいと願った相手をうろたえさせたくなかったので、それについて口に出して何かいうことは避けた。クラウスは息をこらえて、彼に訪れつつある予期せぬ感触を、目を開いてまま身構えて待っていた。
突然、ドリアンの手首が力強く掴まれ、それ以上の動きを阻まれた。顔をあげると、クラウスが体を起こしてこちらを見ていた。表情に狼狽が浮かんでいた。私は急ぎすぎたのだろうか?だがほどなくクラウスは体の力を抜いてドリアンの手首を開放し、ふたたび横たわった。明らかに、ドリアンが自分の望まないことをするつもりはないことを確かめて、安心したのだった。
そしていくばくもしないうちに、クラウスは腰をうごめかせて、上下するドリアンの手の動きに応え始めた。きみのことをよく知らなかったら、初めてじゃないだろ?とか言ってたかもしれないね。ドリアンはそう思った。彼は、ベッドのでのクラウスはもっと声を出す方だろうと思っていた。普段のクラウスはいつでもどこでも、あちこちで怒鳴り声やうなり声を上げている男だったから。だが彼は驚くほど静かだった。射精の瞬間、かれは深く息を吸い込み、そして低いうめき声とともにそれを押し出した。
ドリアンがあとの始末をしている間、クラウスは息を押し殺していた。それからドリアンは再び彼の隣に横たわり、優しく頬に口付けた。クラウスは彼のほうを向いて、キスを口に受けた。
「きみを愛しているよ。」
ドリアンはささやいた。
「ならば、・・・してくれ。」
ドリアンは体を起こした。目を見開いていた。「私は・・・」
「やめて欲しいときにはそう言う。」
彼は私を試しているのだろうか?「きみ、本気なのかい?」
「ああ。おれはただ知りたいだけだ。」
何を知りたいだって?ドリアンは目を細めてクラウスを見下ろした。そして咳払いをして、それが彼の予想したとおりの行為かどうかを注意深く尋ねた。肯定の答えを受けて、彼の目は大きく見開かれた。
なんてことだ。彼は私を試しているに違いない。クラウスが自分からうつ伏せになったときですら、ドリアンはそう考え続けていた。だが彼は気を取り直し、クラウスの開かれた両腿の間に割り込んだ。そして自分の下にいる相手の深呼吸を聞き、それが興奮ではなく、むしろ恐れからくるものだと気付いた。痛みを与えるつもりはないよ、クラウス。今日はね。
彼はオイルを手にとり、少佐の背に塗りこんだ。クラウスは低いうめき声を上げてそれに応えながら、伯爵の手の下で筋肉をびくびくと震わせた。ああ、彼はすごく緊張してる。ドリアンはそう感じ、クラウスの筋肉の凝りを揉み解き、緊張を解かせようとした。そしてそれは先ほどと同じように効果をあげつつあった。そう、そんなふうに、力を抜いて。痛くしないからね。ドリアンの手はクラウスの背中を滑り降り、ついに臀部と腿に達した。
クラウスは、ドリアンの力強い手が自分の緊張を解きほぐしているのを感じ、低く呻いた。彼はさっきまでの緊張を忘れ始めていて、ドリアンの手がむき出しの尻に触れたときには、ほとんど眠りに落ちそうになっていた。あっと思った瞬間には、一本の指が中に滑り込んで、注意探く内部を探っていた。彼は目をさっと開いて小さな叫び声を上げた。
「力を抜いてくれ。」もう一方の手でクラウスの背を撫でつつ、ドリアンは優しく指示した。
「これは・・・おれは・・・」
「ここまでにしておくかい?」
それではずっと分からないままになる!クラウスは自分を押さえ込もうとした。そして気付いた。ドリアンの指はまだ彼の中にあったが、それはもはや動いてはいなかった。伯爵は、続けていいかどうかを問うているのだった。「いや、やめないでくれ。」彼はそう言い、枕の中に顔を埋めた。
「クラウス、これは誰にとってもいいものだとは限らないんだ。」ドリアンは括弧とした口調でそう言い、指を抜き出した。「きみがそうしなきゃならないと思い込んでるだけなら、私はやめておくよ。」
くそっ!なんてこった!クラウスはやるせなく考えた。どうしてこいつは突然こんなに物分り良くなったんだ?忌々しい奴め。なぜおれはとっとこいつにやることを最後までやらせておかなかったんだ?
クラウスは深い息をつき、はっきりと注げた。「続けてくれ。」
「じゃあきみは体の力を抜かなきゃね。」ドリアンも同じようにはっきりと言い返した。
「努力しよう。」
ドリアンは少し考え、それから首を振った。「だめだね。君にはまだこの準備が出来てない。」
この拒否の言葉はクラウスを少なからず驚かせた。彼は振り返って相手を見上げた。伯爵が同じ方法で自分を弄ぼうとしたのは、たった昨夜のことではなかったのか。その彼が今同じ行為を拒絶している。「今になって良心に目覚めたか?」彼は呻き、ベッドに倒れこんだ。
ドリアンは微笑んで膝立ちになり、ゆっくりとクラウスの背に覆いかぶさった。それから両肩にキスの雨を降らせ、そして相手の耳たぶを噛み始めた。
「やめろ、くすぐったい。」クラウスは抗い、相手を追い払おうと手を動かした。
「愛してるよ、クラウス。」ドリアンは静かに言った。唇にキスするために、クラウスの背中から滑りおりながら。
クラウスは彼をじっと見つめた。「どうやらそれは・・・、真実らしいな。」
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続く・・・
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