Snippet #03 - From out of blue
by Kadorienne
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From out of the blue. (瓢箪から駒)
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カフェのテーブルに座っていた伯爵は、眉をしかめて近づいてくる人影に向けてとびきりの輝く微笑みを向けた。機嫌の悪いクラウスは魅力的だった。そしてもちろん、少佐はほとんど常に機嫌が悪かった。
「どうしたんだい、ダーリン?」クラウスが、自分を睨みつけながら真向かいの席の椅子を引くのを見て、ドリアンは尋ねた。
「何もない、今のところはな。いつも通りだ。」
ドリアンは、クラウスのためにすでに頼んであった飲み物を手渡した。少佐はその気遣いにさらに機嫌を悪くしたように見えた。「誰かがきみの機嫌を悪くするようなことをしでかしたのかな? それとも私を嫉妬させようとでもしてるのかい?」
「ばかもの。」クラウスは低くうなった。それから煙草に火をつけ、ドリアンの方に向けて煙を吐いた。とはいえ、その煙は春風に吹き散らされて、泥棒の鼻先にまでは届かなかったのだが。「持って来たんだろうな。」
ドリアンは純粋に傷ついたような表情を浮かべてみせた。「もちろんだよ、ダーリン。私にできなかったとでも?」彼はグラスの脇に折りたたまれた新聞を肘で軽くつついた。その中に隠された書類こそが、たった今少佐が尋ねてきたものだった。
クラウスは新聞を手に取り、眉をしかめて見出しをざっと眺めているようなふりをした。それからうなづき、テーブルに戻した。
「どういたしまして」と、ドリアンは愛嬌たっぷりにうなづきかえしてみせた。「満足してもらえて嬉しいよ。で、NATOが私に求めている次の仕事はなにかな、少佐?」
クラウスは冷ややかな視線を返した。「部長が次の仕事を用意しとる。どうやらおれへの嫌がらせには、おまえを使うのが有効だと気付いたようだな。どうやらほかのどんなばか者にもできん仕事らしい。」
「もちろん、ほかに誰にだってできっこないさ。」ドリアンは手を伸ばし、指先をクラウスのひざの上で軽く遊ばせた。こんな人目のある所では、クラウスだっていきなり殴りかかっては来られまい。「きみの正気を失わせるのは私だけだってことだよ。」
クラウスは眉をしかめた。「やめんか。公衆の面前だ。」
「ふふ、それって、どこか二人だけの場所に移って、続きをこっそり楽しみたいって意味?」ドリアンは喉を鳴らした。
「その通りだ」クラウスは短く答えた。
ドリアンは両目を極限までまんまるに見開いて、呆気にとられて最愛の相手を見た。いままでこんな誘いは数え切れないほど投げかけてきた。返答はよくてせいぜい鼻先で吹き飛ばされるかで、最悪の場合には物理的な暴力だったりもした。それ以外の返答など、期待したこともなかった。
クラウスがドリアンに食らわし続けてきた肘鉄を突如として取り下げ、軽薄な提案にいとも簡単に同意するとは。だが少佐の事務的で虫の居所が悪そうな態度は、いつも通りだった。
ひょっとして疑わしいスパイから絵を盗めとでも命じるつもりだろうか。少佐の様子は普段と全く変わらなかった。煙草をもみ消すときの指が、普段より少しこわばっていたこと以外は。
「いま、何て…?」ドリアンはとうとう聞き返した。自分でも間抜けじみていると思いながら、すっかりうろたえ切っていた。
クラウスは何事も無いような顔つきででドリアンを見た。「聞こえたはずだ。」そしてグラスを取り上げ、中身を一気に飲み干した。
ドリアンの頭のなかで無数のクエスチョンマークが炸裂した。なぜ今。少佐の真の目的は。クラウスがその気になったのはなぜか。単なる好奇心? それともこの先に何らかの計画が…。だがプレゼントに難癖をつけるのは礼儀に反する作法である。彼はやっとの思いで疑問を押さえつけ、立ち上がった。クラウスは彼をちらりと見上げ、さっきの新聞をコートのポケットに押込んだ。立ち上がる前に次の煙草に火をつけたその指が…、かすかに震えていたような気がするのはドリアンの願望だろうか。…そしてクラウスもまた、続けて立ち上がった。
<終>
訳者より:馬に関する日米の成句がひとつづつ出て来ました。
From out of the blue. :瓢箪から駒
Don't [Never] look a gift horse in the mouth.:もらい物のあらを探すな 《★ 馬は歯を見れば年齢がわかるところから》.
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