このサイトでは、「エロイカより愛をこめて(From Eroica with Love)」を題材とした、英語での厖大な二次創作群を翻訳しています。サイト管理者には原作者の著作権を侵害する意図は全く無く、またこのサイトにより金銭的な利益を享受するものでもありません。私が享受するのは、Guilty Pleasure - 疚しい楽しみ-だけです。「エ ロイカより愛をこめて」は青池保子氏による漫画作品であり、著作権は青池氏に帰属します。私たちファンはおのおのが、登場人物たちが自分のものだったらいいなと夢想 していますが、残念ながらそうではありません。ただ美しい夢をお借りしているのみです。

2012/09/24

Peripeteia 13 - by Sylvia









By the Pen - Peripeteia
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エピローグ



「エ~~~ベルバッハ少佐。」部長が、名をわざと長く伸ばして呼んだ。そうすることによって まるで何かをしみじみ味わっているかのように。胸の悪くなるような習慣だ。

「おります。」少佐は短く答えた。彼はうずうずと体を動かしたくなる反応を抑え込み、上司の眉間の皺を無視して煙草に火をつけた。

「良くない習慣だな、少佐。」と上司は言った。「肺に悪い。十年以内に呼吸障害を引き起こすぞ。」

「おっしゃるとおりですな。砂糖やコレステロールとほとんど同じくらい体に悪い。」

部長のチョコレート好きはNATO本部に知らぬものがなかった。彼は丸まっちい顔にしわを寄せ、ひどいしかめっ面を浮かべた。「世間話はさておき、少佐。例の件については、私が勧めたとおりに手配をしておると考えていいのだろうな?」

少佐はじろりと横目で部長を見た。部長の「勧め」というのは、実質的には命令だったが、なんでまたこんな遠まわしなやり方で指示を出してくるのか、その目的が掴めないでいた。「部長がおっしゃるのが、今回の件に関してエロイカと契約を結ぶようにということでしたら、部下にはそのとおり命じています。しかしながらこの件は私、個人的には…」

「よろしい。では計画通りに進めてくれたまえ。きみの狭い視野と幼稚な偏見を払拭する良い機会になればいいのだがね。まあ、せいぜい頑張ってくれたまえ。少し時間がかかるかもしれんが、結果を期待しておるぞ。さて、ところで可愛いG君は最近どうしているかね?」

少佐は最後の質問が耳に入らなかったふりをしてドアへ向かった。部長がGにこだわるのは、単に自分への嫌がらせなのだろうと判断していた。まあいい。上司というのは部下には好かれないものだ。少なくとも少佐自身はそうだ。部下たちは少佐を、殲滅すべき敵よりもなお恐ろしい、避けられない災害のような存在だと捉えていた。それで任務がうまくゆくなら少佐に異存はない。

AからFPZはおれのオフィスに入れ。」部下たちの机の並ぶ大部屋を通り抜けながら、少佐は呼ばわった。呼ばれた部下たちは椅子から跳び上がるようにして従った。

エーベルバッハ市のホテルで、ベッドにぐったりと横たわる伯爵をあとに残して以来、少佐は彼に逢っていなかった。伯爵は微かに奇妙な笑みを浮かべて少佐を見送った。少佐は相手を気遣ってやりたいという衝動を無理に押さえつけ、何も言わずにその場を去った。伯爵がなんらかの口実を付けてエーベルバッハの屋敷にもう一度姿を表すことを密かに恐れていたが、そうはならなかった。ヘドヴイガが翌日ホテルを訪れた時には、伯爵はすでにチェックアウト済みだった。闇の稼業で忙しいのだろうと少佐は思った。美術館。宝石。エロイカが手を伸ばすべき獲物はいくらでもある。

それから数週間、少佐は自分が同性愛者であるという感覚に慣れようと試みた。それは難しかった。自分がひどい不義を働いているような後ろめたさが消えないのだった。ああいうことをしても許されるのはグローリア伯爵のような男だけだ。節操のかけらもない不道徳者だけだ。だがこの説明には説得力がなく、自分でも納得がいかなかった。

納得がいこうがいくまいが、何のちがいがあるわけでもなかった。結局のところ少佐はいずれ妻を娶るだろう。そして妻である女性との間に幾たりかの子女をなす、もしくは少なくとも一人は跡継ぎを得て、家系の存続に貢献する。それは疑いもなく定められた道のりだった。端的に言えば、義務だった。

たまさかの夜の相手を異性から同性に変えるつもりもなかった。それは、完全に問題外の事項だった。自分が同性愛者に生まれついたという不幸な事実を把握しつつ、それを脇においたまま生きて行けるものだと少佐は考えていた。だからこれからも何のちがいもあるわけではない。これ以上考える必要もない。

知った上で行動するか、知らぬままにそう動くかは全く別の話だったが、少佐にささやかな安堵をもたらしたのは、同性と寝ようという意図を少佐がもたなかったのみならず、そうしたいという強い欲望を彼自身全くが感じなかった事実にあった。彼は自分自身を注意深く観察してみた。このやっかいな偏好に気づいて以降も、現実に付き合いのある男たちに対して欲望のするどい痛みを覚えたことは一度もなかった。エロイカとのことは考慮に入れなかった。あれは特殊な事態だ。

いや、あれを考慮に入れたとしても大した違いはない。任務中、あるいはその他の些事に関わっている間は、少佐はあのことを完全に脳裏から追い出すことができたからだ。思い出しもしなかった。もともとそちらの方面への欲求は薄い方だった。生まれつきその欲望が低い性質なのだろうと少佐は考えた。ならば都合がいい。考えを改める必要は何もない。

何も…、エロイカ…、いや、いい。起こってしまった情事がこれからの任務ににどう影響をおよぼすのか、少佐には見当もつかなかった。そもそもこれまでとて、あの目立ちたがりな泥棒との契約関係が順調だった試しがないのだ。だがこと任務と契約において、彼らは双方ともある種のプロフェッショナルだった。双方がエロイカまつわるさまざまな事柄に対応できる熟練者なのだ。そして彼はなぜか疑わなかた。思惑通りのことを伯爵が自分にするように、仕向けることができる。お約束の皮肉の応酬、図々しい交渉ごとなどは、これ以上ひどくなりようがなかい。と、そう願っておこう。

なにを示唆されているのか、あるいはより重要なのはなにを示唆されていないのか伯爵が正確に理解するかどうか、少佐には確信が持てなかった。だがその時には、再び同性と寝ることすら全くの問題外ではなくなるのかもしれなかった。すくなくとも一人の男と。ともあれ、ことの推移を注意深く観察せねばならない。

ああ、今回の契約はまちがいなく、…そうだな、興味深いものになるだろう。


<終>
  
  
  

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