By the Pen - Peripeteia
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返事が返るまでにはかなりの時間がかかった。伯爵は束の間、この要求はもうすこし後まで見合わせておくべきだっただろうかと考えた。だが要求の妥当性など考えても仕方がない。そもそもクラウスをベッドに押し倒してその上に乗りかかって以来の行動は、合理的な見地から考えても決着のつかないものだとはわかっていた。
これと同じようなことがかつてあったと思った。記憶を遥かに遡ったところに思い当たる瞬間があった。おそらく二度目にこの男と顔をあわせた時。それが、この男にしかない魅力にぞくぞくするような痺れを初めて感じた瞬間だった。そしてひとかけらの望みすらないと思われた、渇望の長い日々の後に、ついに・・・。
「できん。」伯爵の愛しい男がようやく言葉を絞り出し、ただちに口を閉じてあごを引き締めた。
「もちろんできるさ。」この怖がり屋を無理やり口説き落とすのは今夜で最後になるのかなと、伯爵は密かに心愉しく考えた。実のところ、少佐に襲い掛かりたくてうずうずしていた。クラウスは力の限りに抵抗するだろう。こんな格好のまま。前がはだけたドレスシャツ、乳首までめくれ上がった下着のシャツ、タキシードの下と健康的な純白のボクサーパンツを脚に絡めたままの姿で…。
長い時間が過ぎた。だがクラウスはついに深く息を吸い込み、伯爵の肩をきつく掴んでいた手を緩めた。ずたずたの衣装を体にまとったまま、彼は陰鬱な決意を浮かべた表情で手を下ろした。そして顔を上げ、目を開いて伯爵を見つめ返した。だが緑に輝く瞳に浮かぶ感情は、まだ伯爵にも読み取れなかった。
クラウスの貴族的な鼻孔がわずかに開いた。「やむを得まい。」 砲撃のさなかに自軍の塹壕を飛び出し、敵の陣地へ向けて闇雲に走りださねばならぬ状況下にでもあるような口ぶりだった。
彼は一種独特の揺るぎない集中力で伯爵の顔をしっかりと見据えた。伯爵は少し体を引き、クラウスの腰の上にまたがって体を前に倒して軽いキスを試みた。その時不意に少佐の片手が伯爵の頭を引き寄せ、伯爵は危うくバランスを崩しそうになった。クラウスは相手をより深い口付けに引き込んだ。少佐の唇は半ば開き、伯爵の舌をはっきりと迎え入れようとしていた。そのキスにはまだためらいがあったが、だがとにかく、彼はそれを自らの意思で選んでいたのである。
躊躇でも決断でもなく、ただ少佐のキスの全くの冷静さにドリアンは狼狽した。つい先程までのクラウスの石像のような硬さから考えれば、意表をついた先手のとり方だった。そしてそれは伯爵が純粋な肉欲にうめき、震えるのに充分な威力を備えていた。クラウスは軽蔑の眼差し一つで伯爵を焼き殺すことができただろう。このキスは、ほとんど痛みにも似ていた。
少佐は伯爵の服を脱がせようとはしなかった。着衣のままの腰から尻を撫で下ろした手はそこで止まった。もう一方の手は伯爵の頬に軽く触れた。指が唇をなぶり、それから変装用のウィッグを外してドリアンの巻き毛をあらわにすると、クラウスの指がドリアンの長い髪を愛おしむように梳いた。
愛撫に、ドリアンはつかの間息を忘れた。予期していたものとは全く違った優しい手触りに、どぎまぎしてしまった。クラウスにそこを触れられたら、爆発してしまうかもしれない。
少佐の手が首筋を下るにつれ、自分でも思っても見なかったような声が伯爵の喉から漏れた。その手は服の上から胸をなで、続いて何のためらいもなしに布の中に滑りこみ、ドリアンをしっかりと握った。指がその先をじらし、伯爵はこらえ切れない声を上げて背をのけぞらせた。クラウスの手が上下するに連れてドリアンはついに叫び声をあげた。そして、いくらもたたないうちにくぐもった声をとともに最後まで達した。
「クラウス、」少佐の胸に体を預けながら、伯爵は喘いだ。「きみがこんな、・・・。驚いたよ。でもすごくよかった。」
少佐は再び目を閉じ、何かを呑み込もうとした。落ち着こうとつとめるように、深呼吸を繰り返した。そしてすぐに伯爵の抱擁から逃げるように転がるように身を外し、立ち上がって衣服の乱れを整え始めた。
彼は伯爵を見ないようにしていた。
「何もなかった。いいな。」
「きみの仰せにままに。ダーリン。」ドリアンは猫が甘えるような声で答えた。少佐のつれなさそのものより、それに傷ついた自分自身の失望と怒りのほうが伯爵にはより大きな驚きだった。考える間もなく、彼は韜晦のための仮面の幾つかからふさわしいものを選び出し、わざとらしい媚を含んだ声で返事を返していた。そしてその返事に少佐が見せた、思った通りの反応に小さな満足を覚えた。
「あのね、ここから遠くないところに小さな可愛らしいレストランがあってさ、Zur Alten Muehle、そんな名前だったと思うんだけど。明日の夕食をそこでどうかな?夕食の後のことは二人で相談しようよ。」
「出て行け!」
いつもどおりの激怒を、かなり際どいところまで再現できていた。だがそれは伯爵を騙しおおせるには程遠い出来だった。なにしろ少佐の激怒を鑑賞するという楽しみにおいては、伯爵は並ぶものないエキスパートだったのだから。声の大きさはいつもどおりだったが、調子になにかが欠けていた。感情がちぐはぐだった。そしてなにより、少佐はまだ伯爵の方を見ようとはしなかった。どこが、と指摘は出来なかったが、伯爵は次第に何かが違うと思い始めた。
「少佐、どうしたんだい?」ここまできたからには、もはやなにも問題じゃないだろうに・・・。絵画の展示室で、それとは気づかないままにドリアンをとらえた時から、クラウスは何かおかしかった。大広間であの老人を何の理由もなく攻撃した時にの少佐は、さらに常軌を逸していた。そして押し倒されるままにドリアンの誘惑に応えたこと、さらにその後には彼自身が伯爵の欲情を満たすのに協力したこと。そしてこの怒りの感情を伴わない、見せかけの激怒・・・
少佐は落ち着かなさげなそぶりのまま、ドリアンを睨みつけた。黒髪がもつれていた。「どうかしたかだと?これ以上何がどうかなるんだ?おまえがおれの屋敷にいる。おやじがおれを殺そうとする。おれはおまえと・・・、おれが・・・。おれは言いなりにはならんぞ。奴が何を知っていようと、どうにもさせん!それから、この変態、おまえはまだ答えとらん。理由を言え。おれより見端のいい男は星の数ほどいる。だから、見た目が問題なのではないはずだ!」
少佐が何を言っているのか理解するまで、少し時間がかかった。我を忘れた少佐は炎を噴く火炎放射器ののように魅力的だった。特に今のように、彼に直の肌に触れた感触が指先に残るこのときには。彼の味がまだ舌の上に残る、今のようなこの瞬間には。
少佐に見とれる伯爵に苛立ったのだろう、少佐は形相を変えた。怒りが臨界点に達したようだった。緑にぎらつく目はいつも通りたいそうセクシーだったが、それでも少佐がもう少し落ち着くまでこのまま待つというのは、懸命な選択とはいえなさそうだった。
これまでの例に従い、彼は飛び上がってドアの方へ走った。彼を捕まえようとした少佐の手を、体を一ひねりしてすり抜け、後ろ手にドアを音を立ててしめた。立ち止まって急いでファスナーを上げ、それから石造りの回廊の手近な物陰に駆け込んだ。少佐があの乱れた服装のままで廊下に追いかけてくる気になった場合のことを考えて、窓枠に手を掛けた。
だが彼は追ってはこなかった。一連の衝撃にもかかわらず、そこまでの分別は失ってはいなかったようだった。
誰かが廊下をやってきてクラウスのドアの前に立った。誰とは知れぬその人物がノックするまで、しばらく時間があった。なぜかためらいがちだった。
"Was! WAS!! Kann man denn in diesem verfluchten Irrenhaus keine Sekunde Ruhe haben, Herrgott verdammt nochmal!!!"(何だ!何なんだ!この精神病院では病人を一瞬たりとも静かにさせんのか!くそっ!また来やがったか!)
これと同じようなことがかつてあったと思った。記憶を遥かに遡ったところに思い当たる瞬間があった。おそらく二度目にこの男と顔をあわせた時。それが、この男にしかない魅力にぞくぞくするような痺れを初めて感じた瞬間だった。そしてひとかけらの望みすらないと思われた、渇望の長い日々の後に、ついに・・・。
「できん。」伯爵の愛しい男がようやく言葉を絞り出し、ただちに口を閉じてあごを引き締めた。
「もちろんできるさ。」この怖がり屋を無理やり口説き落とすのは今夜で最後になるのかなと、伯爵は密かに心愉しく考えた。実のところ、少佐に襲い掛かりたくてうずうずしていた。クラウスは力の限りに抵抗するだろう。こんな格好のまま。前がはだけたドレスシャツ、乳首までめくれ上がった下着のシャツ、タキシードの下と健康的な純白のボクサーパンツを脚に絡めたままの姿で…。
長い時間が過ぎた。だがクラウスはついに深く息を吸い込み、伯爵の肩をきつく掴んでいた手を緩めた。ずたずたの衣装を体にまとったまま、彼は陰鬱な決意を浮かべた表情で手を下ろした。そして顔を上げ、目を開いて伯爵を見つめ返した。だが緑に輝く瞳に浮かぶ感情は、まだ伯爵にも読み取れなかった。
クラウスの貴族的な鼻孔がわずかに開いた。「やむを得まい。」 砲撃のさなかに自軍の塹壕を飛び出し、敵の陣地へ向けて闇雲に走りださねばならぬ状況下にでもあるような口ぶりだった。
彼は一種独特の揺るぎない集中力で伯爵の顔をしっかりと見据えた。伯爵は少し体を引き、クラウスの腰の上にまたがって体を前に倒して軽いキスを試みた。その時不意に少佐の片手が伯爵の頭を引き寄せ、伯爵は危うくバランスを崩しそうになった。クラウスは相手をより深い口付けに引き込んだ。少佐の唇は半ば開き、伯爵の舌をはっきりと迎え入れようとしていた。そのキスにはまだためらいがあったが、だがとにかく、彼はそれを自らの意思で選んでいたのである。
躊躇でも決断でもなく、ただ少佐のキスの全くの冷静さにドリアンは狼狽した。つい先程までのクラウスの石像のような硬さから考えれば、意表をついた先手のとり方だった。そしてそれは伯爵が純粋な肉欲にうめき、震えるのに充分な威力を備えていた。クラウスは軽蔑の眼差し一つで伯爵を焼き殺すことができただろう。このキスは、ほとんど痛みにも似ていた。
少佐は伯爵の服を脱がせようとはしなかった。着衣のままの腰から尻を撫で下ろした手はそこで止まった。もう一方の手は伯爵の頬に軽く触れた。指が唇をなぶり、それから変装用のウィッグを外してドリアンの巻き毛をあらわにすると、クラウスの指がドリアンの長い髪を愛おしむように梳いた。
愛撫に、ドリアンはつかの間息を忘れた。予期していたものとは全く違った優しい手触りに、どぎまぎしてしまった。クラウスにそこを触れられたら、爆発してしまうかもしれない。
少佐の手が首筋を下るにつれ、自分でも思っても見なかったような声が伯爵の喉から漏れた。その手は服の上から胸をなで、続いて何のためらいもなしに布の中に滑りこみ、ドリアンをしっかりと握った。指がその先をじらし、伯爵はこらえ切れない声を上げて背をのけぞらせた。クラウスの手が上下するに連れてドリアンはついに叫び声をあげた。そして、いくらもたたないうちにくぐもった声をとともに最後まで達した。
「クラウス、」少佐の胸に体を預けながら、伯爵は喘いだ。「きみがこんな、・・・。驚いたよ。でもすごくよかった。」
少佐は再び目を閉じ、何かを呑み込もうとした。落ち着こうとつとめるように、深呼吸を繰り返した。そしてすぐに伯爵の抱擁から逃げるように転がるように身を外し、立ち上がって衣服の乱れを整え始めた。
彼は伯爵を見ないようにしていた。
「何もなかった。いいな。」
「きみの仰せにままに。ダーリン。」ドリアンは猫が甘えるような声で答えた。少佐のつれなさそのものより、それに傷ついた自分自身の失望と怒りのほうが伯爵にはより大きな驚きだった。考える間もなく、彼は韜晦のための仮面の幾つかからふさわしいものを選び出し、わざとらしい媚を含んだ声で返事を返していた。そしてその返事に少佐が見せた、思った通りの反応に小さな満足を覚えた。
「あのね、ここから遠くないところに小さな可愛らしいレストランがあってさ、Zur Alten Muehle、そんな名前だったと思うんだけど。明日の夕食をそこでどうかな?夕食の後のことは二人で相談しようよ。」
「出て行け!」
いつもどおりの激怒を、かなり際どいところまで再現できていた。だがそれは伯爵を騙しおおせるには程遠い出来だった。なにしろ少佐の激怒を鑑賞するという楽しみにおいては、伯爵は並ぶものないエキスパートだったのだから。声の大きさはいつもどおりだったが、調子になにかが欠けていた。感情がちぐはぐだった。そしてなにより、少佐はまだ伯爵の方を見ようとはしなかった。どこが、と指摘は出来なかったが、伯爵は次第に何かが違うと思い始めた。
「少佐、どうしたんだい?」ここまできたからには、もはやなにも問題じゃないだろうに・・・。絵画の展示室で、それとは気づかないままにドリアンをとらえた時から、クラウスは何かおかしかった。大広間であの老人を何の理由もなく攻撃した時にの少佐は、さらに常軌を逸していた。そして押し倒されるままにドリアンの誘惑に応えたこと、さらにその後には彼自身が伯爵の欲情を満たすのに協力したこと。そしてこの怒りの感情を伴わない、見せかけの激怒・・・
少佐は落ち着かなさげなそぶりのまま、ドリアンを睨みつけた。黒髪がもつれていた。「どうかしたかだと?これ以上何がどうかなるんだ?おまえがおれの屋敷にいる。おやじがおれを殺そうとする。おれはおまえと・・・、おれが・・・。おれは言いなりにはならんぞ。奴が何を知っていようと、どうにもさせん!それから、この変態、おまえはまだ答えとらん。理由を言え。おれより見端のいい男は星の数ほどいる。だから、見た目が問題なのではないはずだ!」
少佐が何を言っているのか理解するまで、少し時間がかかった。我を忘れた少佐は炎を噴く火炎放射器ののように魅力的だった。特に今のように、彼に直の肌に触れた感触が指先に残るこのときには。彼の味がまだ舌の上に残る、今のようなこの瞬間には。
少佐に見とれる伯爵に苛立ったのだろう、少佐は形相を変えた。怒りが臨界点に達したようだった。緑にぎらつく目はいつも通りたいそうセクシーだったが、それでも少佐がもう少し落ち着くまでこのまま待つというのは、懸命な選択とはいえなさそうだった。
これまでの例に従い、彼は飛び上がってドアの方へ走った。彼を捕まえようとした少佐の手を、体を一ひねりしてすり抜け、後ろ手にドアを音を立ててしめた。立ち止まって急いでファスナーを上げ、それから石造りの回廊の手近な物陰に駆け込んだ。少佐があの乱れた服装のままで廊下に追いかけてくる気になった場合のことを考えて、窓枠に手を掛けた。
だが彼は追ってはこなかった。一連の衝撃にもかかわらず、そこまでの分別は失ってはいなかったようだった。
誰かが廊下をやってきてクラウスのドアの前に立った。誰とは知れぬその人物がノックするまで、しばらく時間があった。なぜかためらいがちだった。
"Was! WAS!! Kann man denn in diesem verfluchten Irrenhaus keine Sekunde Ruhe haben, Herrgott verdammt nochmal!!!"(何だ!何なんだ!この精神病院では病人を一瞬たりとも静かにさせんのか!くそっ!また来やがったか!)
古色蒼然たる屋敷の石造りの壁と厚い木のドア越しに聞こえる少佐の声は、まったく印象的だった。ドアをノックした人物のおどおどした声はドリアンの隠れた位置からは全く聞こえなかったが、棘をやや落とした少佐の返答は、それでもなおはっきり聞こえた。
まったく。伯爵はひとりごちた。貧弱なドイツ語能力のせいで内容をほとんど理解せずに済んだのは幸いだった。怒り狂っている少佐が何を怒鳴っているかなんて知りたくもない。少佐のドイツ語日常会話の授業内容はこれまでのところ罵詈雑言ばかりだったが、そろそろ愛の会話レッスンを始めたいものだと伯爵は考えていた。たぶんそれも遠くはない。
「ばかもの!三十分だといっただろうが!」おどおどとした返事が返った。「聞こえんのか!おれが言った通り、三十分だと伝えてこい!この腰抜けめ!」だそれでもがおずおずと、ほとんど絶望的な抗弁が聞こえた。「くそっ!もういい!今すぐ行くと伝えろ、この臆病者め!」
おやおやこれは聞き逃せないな…。伯爵は思った。どうやら父親に呼ばれたらしい。全くの似た者親子。息子と同様に怒り狂った父親は、大事な跡取りがあそこまで常軌を逸した行動をとった理由を知りたがっているに違いない。伯爵自身と同じように。
<続く>
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