やまなしおちなしいみなしです。私なりのミッションは、「とにかく伯爵を幸せにしてあげよう!」
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「口答えが気に入らないって言われてもね。きみの言いつけをなんでも聞く、ものわかりのいい金髪くんでいるのかい?この私が?それってまんま、Z君じゃないか!」伯爵はくすくす笑った。「きみはZ君に気があるのかな?」
「ばばば、ばっかもんが!けしからんことを言うな!」
数ヶ月ぶりの夜だというのにこの会話だ。夕飯はこいつに付き合って熱いものをたらふく食った。風呂はさっさと済ませた。酒の買い置きはまだある。飲むなら飲む、やるならやる、夜の過ごし方は他にいくらでもあるだろうが。なんだっていつもこんな憎たらしいことばかり言いやがるんだ?
「うろたえすぎだよ。でもほんとはああいう清純なタイプが好きなんだろ。」
「黙らんか!」
「彼の方はどうなんだろ。きみが誘ったら断らないとおもうけどな。」
金髪は巻き毛を指でもてあそびながら、髪を絡めた指を唇に寄せた。やつがよくやる仕草だ。おれは時折それを横目で盗み見る。今も見た。洗い上りの巻き毛はまだしっとりと湿っていて、いつもよりも鈍い金色に見えた。
「部下にそんなことが出来るか!ちがうちがうちがう!部下でなくともあいつに手なんか出さん!」
「ふうん。とすると、きみはZ君には手を出さない。だったら私がZ君みたいないい子ちゃんになっても無駄ってもんだよ。だってなんにもしてくれないんだろ。私は私の路線で、正々堂々とこっちから手を出すさ。さあ、脱ぎたまえ。さっき履き替えたきみの下着がグレーなのはもう調べ済みだ。もったいぶらなくてもいいよ。」
「…。」
「脱ぐか脱がないのかどっちだい。今夜やっとかないと、また数ヶ月先までお預けだよ。今度の任務は長そうなんだろ?」
「…くそっ!」
「私が手伝ってあげるさ…、ほら…。」
「…。」
「私が触れただけでこんなになってる。きみのも、それから私のも…。」
「…。」
「きみが私を気に入らないだなんてうそだよ。」
「…。」
「きみは私に夢中だよね。私もそうだよ。だから、ずっと待っていたんだよ。」
「…。」
「ああ、でもね、きみがZ君に気がないってのは信じてないから。Z君から誘ってきたらきみ、多分断れないよね。」
考える間もなく右手が動いた。
「痛っ!なにするんだよ!」
もう我慢がならなかった。
「なんでこんなときに他の男の話を出すんだおまえは!おれはおまえのそういうところが気に入らんのだ!」
「こういう会話はベッドの上のスパイスだろ!きみは『ほかの男なんか目に入らん。おれにはおまえだだけだ。』とかなんとかかんとか言っときゃいいんだよ!殴ることはないじゃないか、野蛮人!」
「なーにが『おまえだけ』だ。おまえはおれだけなのか?え?言って見ろ!」
目の前の金髪がぐっと返事に詰まった。ほれみろ。はらわたが煮えくり返った。こいつに身持ちなんぞを求めるのは間違いだ。なんでおれだけ馬鹿正直に貞操を守ってやらんとならんのだ。
だから爆弾を落としてやった。
「こんどZが誘ってきたらおれは断らん。こっちから手を出してみてもいい。おまえがいろいろやりかたを教えてくれたしな。」
「言ったね、きみ。…ってちょっとまって、今度って!今度って!」
「数ヶ月に一度の逢瀬が毎回これだ。おれは可愛い部下と出来上がって、公私ともどもに幸せな生活を送った方がいいのかも知れん。おまえもよそで相手に困らんようだしな。」
「…きみがいつかそういうことを言い出すと思っていたよ。」
巻き毛は本気で怒り始めていた。瞳が輝き、巻き毛が逆立った。こいつがおれを怒らせるのは簡単だが、おれがこいつを怒らせるのは難しい。おれはこいつの怒った顔が好きだ。おれをたらしこもうと意味ありげに見つめる瞳や、いろいろと癪にに触る流し目よりもずっと好きだ。露助がおれをナチス呼ばわりした時に、巻き毛が間髪入れずに食らわせた平手をおれは忘れない。引き締めた唇の上で、瞳がきらきらと輝いていた。おれのアポロン。
おれは素早く動いてエロイカを制圧した。おれのような訓練を受けた者には、たやすいことだった。おれの体の下で、巻き毛は目をぱちくりさせておれを見上げた。彫りの深い顔にかかる金髪をゆっくりと払いのけて、おれは巻き毛に口付けた。巻き毛はうっとりと唇を開いた。おれは舌を差し入れた。
夜が始まった。
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