部 屋に残る冷えた煙草の匂いは、かつて喫煙者であった私にすらやはり、とげとげしくざらざらした不快な匂いだ。煙草の残り香は、それが肉体に纏わっている時 のみ好ましい。体を寄せたときに気が付くそれ。髪が揺れるときに立ちのぼるそれ。さっきまで執拗に私をまさぐっていてた右手がふと場所を変えて私の顎を捉 え、あの物騒なマグナムの引き金をやすやすと引く人差し指を、きみの、別のものの替わりに私の口に差し込んでくるときに味わうそれ。私自身の匂いの奥にき みの煙草の残り香を感じ、私は鼻腔と口腔でそれを味わう。味わいつつ、君の指に奉仕する。私は目を閉じているが、きみが私の顔を見つめているのを知ってい る。そういう遊びだ。きみがつい何日か前に知って、お気に入りになった遊びだ。きみは快楽に対してはとても無知で、至極当たり前のことしか知らなかった。 挿入と、その後の単純な運動と。そんなものはなにひとつ重要ではなく、むしろ私たちの間ではなくても一向にさしつかえない行為なのに。
俺 はもう平常心で引き金を引けん気がする。きみは茫然としてそう言う。私の唾液に濡れた、自分の指を見ながら。はは、馬鹿だな。きみをそんな気にさせるのは 他の何物でもない、この私だけだ。きみに教え込んでいない快楽はまだまだたくさんあるんだよ。今はせいぜい、人差し指に残る私の舌の感触を思い出しては、 人知れず時折り震えているがいい。ひとつひとつ教えてゆくよ、私はそれだけ待ったのだから。そしてきみに教え込んだ快楽を、いずれすべて私にも返してもら おう。それが私の報酬だ。教えるものが多ければ多いほど、私の報酬も大きくなる。私がそれまで我慢できないかもしれないって?言うね、きみ。では次はまず 私の人差し指に仕えたまえ。今度はきみに指ではなく、舌と口の中の悦びを教えてあげよう。目を閉じたまま相手に凝視される快楽だって、君はまだ思いついて もいないはずだ。きみの知らないことはまだまだたくさんあるんだよ。私がきみの任務について無知なのと同様にね。そうだろう?
時間は、これからまだまだたくさんある。 別に今夜でなくとも。
き みは私とのことの後に必ず、煙草に火をつける。きみが属する味気ない現実に戻るための、あらかじめ定められた手段のように。私の寝室に残る煙草の残り香 は、私にとってはきみそのものだ。いや、ちがう。これはきみの「不在」の匂いだ。とげとげしくざらざらした、不快な匂いだ。
き みがいない間、私はこの空虚で手触りの悪い不快さを紛らわすために、きみが置いていった煙草を嗜むとしよう。きみの国のごく普通の煙草だ。ベッドサイドの 引き出しの、私のラテン語の聖書の下に注意深く隠しておくことにするよ。ああ、私はもう吸わないんだ。だからこの煙草は別のことに使う。きみを思い出すた めに。地に精を漏らすこの罪深い行為の秘密を聖書の下に隠すとは、なんて罪深い。きみが去った寝室で、私はほくそえむ。
俺 はもう平常心で引き金を引けん気がする。きみは茫然としてそう言う。私の唾液に濡れた、自分の指を見ながら。はは、馬鹿だな。きみをそんな気にさせるのは 他の何物でもない、この私だけだ。きみに教え込んでいない快楽はまだまだたくさんあるんだよ。今はせいぜい、人差し指に残る私の舌の感触を思い出しては、 人知れず時折り震えているがいい。ひとつひとつ教えてゆくよ、私はそれだけ待ったのだから。そしてきみに教え込んだ快楽を、いずれすべて私にも返してもら おう。それが私の報酬だ。教えるものが多ければ多いほど、私の報酬も大きくなる。私がそれまで我慢できないかもしれないって?言うね、きみ。では次はまず 私の人差し指に仕えたまえ。今度はきみに指ではなく、舌と口の中の悦びを教えてあげよう。目を閉じたまま相手に凝視される快楽だって、君はまだ思いついて もいないはずだ。きみの知らないことはまだまだたくさんあるんだよ。私がきみの任務について無知なのと同様にね。そうだろう?
時間は、これからまだまだたくさんある。 別に今夜でなくとも。
き みは私とのことの後に必ず、煙草に火をつける。きみが属する味気ない現実に戻るための、あらかじめ定められた手段のように。私の寝室に残る煙草の残り香 は、私にとってはきみそのものだ。いや、ちがう。これはきみの「不在」の匂いだ。とげとげしくざらざらした、不快な匂いだ。
き みがいない間、私はこの空虚で手触りの悪い不快さを紛らわすために、きみが置いていった煙草を嗜むとしよう。きみの国のごく普通の煙草だ。ベッドサイドの 引き出しの、私のラテン語の聖書の下に注意深く隠しておくことにするよ。ああ、私はもう吸わないんだ。だからこの煙草は別のことに使う。きみを思い出すた めに。地に精を漏らすこの罪深い行為の秘密を聖書の下に隠すとは、なんて罪深い。きみが去った寝室で、私はほくそえむ。
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