このサイトでは、「エロイカより愛をこめて(From Eroica with Love)」を題材とした、英語での厖大な二次創作群を翻訳しています。サイト管理者には原作者の著作権を侵害する意図は全く無く、またこのサイトにより金銭的な利益を享受するものでもありません。私が享受するのは、Guilty Pleasure - 疚しい楽しみ-だけです。「エ ロイカより愛をこめて」は青池保子氏による漫画作品であり、著作権は青池氏に帰属します。私たちファンはおのおのが、登場人物たちが自分のものだったらいいなと夢想 していますが、残念ながらそうではありません。ただ美しい夢をお借りしているのみです。

2012/05/21

FEET OF CLAY 13 Tell Me You Love Me - by Margaret Price


 
Fried Potatoes com -  FEET OF CLAY  13 Tell Me You Love Me
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作者からひとこと: そうです。またしても生ぬるいエンディングになってしまいました。皆さんのうめき声が聞こえるようです。プレゼントの中身とか、結末のセリフとか。





Tell Me You Love Me - 愛していると言ってくれ



これまで幾度となくそうだった通り、山荘で過ごす時間は矢のように過ぎ去った。クラウスが見るかぎり、ドリアンの状態はずっと改善したように見えた。だがすっかり元通りとは行かなかった。少佐が伯爵をホテルまで送り届けたときに、伯爵は胸にせつない痛みを覚えた。数週間のうちに彼はイングランドに帰り、体調を完全に取り戻すまでの日々をグロリア城で過ごすことになる。

ドリアンが完治するまで、エロイカが少佐の任務にかかわってくることはないだろう。伯爵はまた、記憶の少なくとも一部でも取り戻すまでは、本業の美術泥棒を再開するつもりも無かった。彼にとって喜ばしかったことに、クラウスは数カ月おきにこの山荘で逢おうと言ってくれた。山荘で再開するたびに、記憶が少しずつ取り戻されていった。かなりの期間の記憶が一度に蘇ったことすらあった。このままゆけばすべての記憶を取り戻すことも可能なのかもしれないと、ふたりは思い始めた。だが、ドリアンがこだわっている限り、暴行の記憶そのものは永遠に封印されたままなのかもしれなかった。


* * *


夏になっていた。ドリアンは草むらに腰を下ろし、湖を見下ろしていた。汗ばむような日だったが、風が空に浮かぶ数片の雲をゆっくりと吹き流していた。クラウスは少し離れた場所で、黙って煙草をふかしていた。しばらくたって、ドリアンはクラウスの方に目をやった。クラウスは折り曲げた膝の上に煙草を持った手を載せて、木にもたれかかったまま目を閉じていた。鉄のクラウスがこれ以上ないほどに自分を開放し、くつろいでいる。ドリアンはそう思った。

「きみを、愛しているから。」ドリアンは唐突に口を開いた。

クラウスは目を開けてドリアンを見遣り、唇の両端にかすかな笑みを浮かべた。その同じ言葉を聞くなり、部屋を横切ってドリアンを殴りつけたのはいったいいつのことだったろう。その言葉を今は、幾度でも繰り返し聞きたかった。

「もしそうなら、それを見せてくれ。教えてくれ。」クラウスは穏やかに繰り返した。だが意外にも、ドリアンは全く別のことを言い出した。「何が問題なんだろう?」

「何も。でなければ最初からすべてが問題なのか、どちらかだ。」

「随分よくわかったような言い方だね。」

ドリアンはため息をつきながら立ち上がった。半分眠ったままつぶやいたあの一度を除けば、クラウスは一度も「愛している」とは言ってくれていなかった。その言葉をねだってみたほうがいいのだろうか?この一年の間、クラウスはそれをあらゆる行動で示してくれていた。だが、ドリアンの回復を待つ間中ずっと、彼らの関係を秘密のままにしておくのは難しかった。だが考えてみれば、失われてしまった十年の過去の時にすでに、それは難しい問題になっていたはずだ。

「クラウス、もう戻ろう。」

「どうした?なにか思い出したのか?」

「何も・・・」彼はため息をついた。「何が問題なのか自分でよくわからないんだ。」彼はぼんやりとした返事を返した。「きみには迷惑をかけっぱなしだ。」

「ドリアン。もう自分を責めるのはやめろ。」煙草を消し、クラウスもまた立ち上がった。「迷惑なら、記憶喪失の患者は病院に任せておいていたさ。」返事の代わりに、伯爵は少佐にしがみついた。

「ずっと待っていてくれてありがとう。」ドリアンは息を吐いた。「きみを愛しているよ。」

「知っとる。もう何度も聞いたぞ。」

ドリアンの痩せ我慢はそこまでだった。「どうしてきみは言ってくれないんだ?」

「何だ?」

「きみがそう思ってるのは知ってるよ。そんなことを口にだすのは馬鹿馬鹿しい、気取りすぎだ、でれでれしすぎてる、ってね。それにきみは黙ったまま行動でなんども証明してみせた。もしかすると私はそれを一生思い出せないのかもしれないけど。」いちど口火を切ってしまうと、ドリアンはこぼれ落ちる言葉をとどめることが出来なかった。「でも、一度でいいから聞きたいんだ。たった一度でいい。口にしてほしい。」

クラウスはだまったままドリアンを見つめていた。それは、かつて過ごした日々のうちにも、もう幾度と無く繰り返してきた会話だった。ドリアンは隠し事の限界に来ていた。軍部は同性愛者に対する政策をついに変更していた。クラウスが自分の性向を公表したとしても、軍人としてのキャリアは維持できるはずだった。ドリアンはそのことを、とうに二人の間の話題に持ちだしていた。幾度と無く。そしてクラウスがその答えを告げようとした夜、ドリアンは暴行を受けたのだった。

「戻ろう」。クラウスはとうとう口を開き、手を差し出した。「渡すものがある。戻ろう。」

ドリアンは疑うような目付きで、クラウスの手をとった。彼らは山荘への道を言葉少なに歩み始めた。


* * *


クラウスが山荘ではなく前に泊めたメルセデスの方に歩いてゆくのを見て、ドリアンは不審そうに目を細めた。「クラウス…?」

「もう一年以上、ここに入れっぱなしだ。」クラウスはそう言ってトランクを開けた。「あの夜、おまえに渡すつもりだった。」彼は目を閉じてその後に続く言葉を飲み込み、トランクから小さなギフトボックスを取り出した。それは確かに新しいものではなく、長いこと忘れられたまま、車の後ろに放置されていたもののように見えた。

「なんだい、それ?」ドリアンは疑わしげな声を出した。

クラウスはかすかなほほ笑みを浮かべ、秘密めかした口調で言った。「中で言おう。」

「随分もったいぶるんだね。」

「1年以上も待ったんだ。すこしぐらいおれの好きなようにやらせろ。」クラウスはそう言って先にたって山荘へ入った。おまえはどうしようもないロマンチストだろうが。おまえのやり方でやってやるぜ。彼は片手を出した。「そこへお掛けいただこう。」

ドリアンは革張りのコーチに腰掛け、クラウスを待った。箱の中身をあれこれ予想し、目が輝いていた。

クラウスは箱をテーブルにそっと置き、それを開けて息を吸った。「この中には薔薇が入っていた。」彼は柔らかい口調で始めた。「・・・全部準備して暗記していたはずだったんだがな。くそ、全く思い出せん。」彼は箱のなかから更に小さな箱を引き出し、ドリアンの前に跪いた。それから彼はその小さな小箱を開き、ドリアンの目の前に捧げた。小箱の中には厚みのある金のリングが光っていた。「言葉の替わりに、おれが捧げたいものはこれだ。おまえが今している指輪のかわりにこれを身に着けてくれるならば、それにまさる喜びはおれにはない。」

ドリアンのつぶらな青い瞳がさらに大きく見開かれ、唇から喘ぎ声が漏れた。彼はリングボックスから指輪を取り上げた。それは細かい彫金細工で、ロープのまわりを薔薇が取り囲んでいるデザインだった。どの薔薇にも真ん中にルビーが埋め込まれていた。ワイヤーロープ。間違いない。その意味するところに思い当たった瞬間、ドリアンは微笑を浮かべてクラウスを見上げた。「クラウス、とてもきれいだ。だれのデザインだい?」

「おまえが描いた絵からとった。」

ドリアンは小さく呻いた。「思い出したよ、その絵を!」取り戻した記憶の明晰さに、彼は喜びの声を上げた。こんなふうに記憶の断片を取り戻すことが、最近よく起こっていた。「私はきみを薔薇の蔓で引き寄せたんだ。ドイツ製の鋼鉄のワイヤーロープ、それがきみだ。きみはイングリシュ・ローズに絡め取られたんだ。」

思い出してくれて嬉しいぞ。クラウスは深く息を吸った。「内側に刻印がある。」

ドリアンは目を落として、リングの内側を見た。そこにはこうあった。「ともに歩むことを誓う。永遠の愛をこめて。クラウス」ドリアンは手のひらで口を覆って涙をこらえた。「これを渡すのを一年も待ってくれてた?」彼は小さな声で訪ねた。

「そうだ。そこには十の薔薇を彫らせた。一年につきひとつだ。」

ドリアンは万感の思いを込めてクラウスに口付けた。ながいことたって、ようやく息を吸うために唇を離したとき、輝かしい笑顔が彼の表情に浮かんでいた。そして彼は左手にはめていた指輪をはずし、たった今クラウスから贈られた指輪をはめた。ぴったりだった。「いつの間に測ったんだろ、きみってば。」彼はクラウスの頬にもう一度口付けた。「ありがとう、クラウス。」

「気に入ってもらえればそれでいい。」

「きみが私を愛しているって、本当なんだね?」

いわずもがなの問いだった。だがクラウスはそれでも答えた。「ああ。はっきりとそう宣言する。」

ドリアンはちらりとクラウスを見た。「軍人らしい言い方だ。」

「軍部は軍人の性的嗜好に関する政策を変更して以来、おまえはずっとおれに言っていた。例えこの関係が公になっても、おれの経歴には影響がないだろうと。」クラウスは伯爵に視線を向けた。「おれはその意見を受け入れることにした。そして・・・」彼は言いよどみ、息を吐いた。「おれのチームの部下たちに先に言うつもりでいた。」ドリアンは呆気に取られた表情でクラウスを見た。「言う?きみが?」

クラウスはうなずいた。「ボーナムとうちの執事には、この件を公開することについて事前に告げてあった。だがその後にあの事件が起こった。」

ドリアンは体を硬くしたまま、たった今クラウスが言ったことを理解しようとした。「それで、きみはいまもまだそうしようと思っていると?」

「ああ。ただ結ぶべき協定がひとつある。任務の間はセックスは無しだ。」

「少佐、ひどいよ!そんなのってないよ!」ドリアンは楽しげにうめいた。

「おまえは任務の邪魔ばかりするからな、エロイカ。」

輝くような笑みがドリアンの口元に浮かんだ。「きみを怒らせた後のセックスは格別だからね!」

クラウスは天を仰いでため息をついた。「救いようのない変態だ、おまえは。」

ドリアンは笑い出さずにいられなかった。「きみの部下たちには青天の霹靂だと思うよ。」

「Zがもう知っとる。」クラウスが告げた。「あの夜、おまえの病室で、見られた。」彼は言葉を切り、想い出しながら目を閉じた。こいつに見られてなくて良かったぜ。

「見られたって、何を?」

「泣いているところだ。」

「きみが?泣いてたって!?」昨年から現在に至るまで数限りなく見聞きしてきた、鉄のクラウスに似つかわしくないセリフと行動のうち、たった今聞いた一件が最も予想外な一言だった。そしてクラウスはついに頷いた。

「おまえを失うかもしれないと考えた。」クラウスはしっかりと視線をあわせてそう言った。「そして、ほとんど失いかけた。」

ドリアンはクラウスの顔を見つめ返したまましばらく動けなかった。やがてクラウスが静かに「おまえを愛している。」と告げた瞬間、ドリアンは飛び掛ってクラウスをソファに押し倒した。「きみをめちゃくちゃにしてやるよ!いまここで、リビングの真ん中でさ!」

「できるのか?」

「すっかり治ってるよ!きみが健康証明書をくれたみたいなもんさ、少佐!」ドリアンの熱いキスがクラウスを捕らえた。シャツのボタンをはずしにかかるドリアンの手首を、クラウスは掴んで止めた。

「ああ、忘れるところだった。」クラウスは唐突な声を上げた。

「何を?」

「明日はおまえの誕生日だぞ。」

ドリアンはぱちぱちと瞬きをした。それから、流し目をくれた。「きみがプレゼントってわけ?」甘えるように喉を鳴らした。

クラウスは考え込むふりをし、それから答えた。「いいだろう。」

「これから先もずっとくれなきゃやだよ!」ドリアンは大笑いして、クラウスの首に頬をこすりつけた。

「贈り物を開けていいぞ。」

ドリアンはくすくす笑って、シャツのボタンをはずし始めた。彼は微笑みながら視線を落とし、自分の指に光る新しい指輪に目を留めた。「恥ずかしいことを言うなって、怒らないでくれよ。」彼はクラウスのキスを掠め取った。「愛してるよ。私の美しい少佐、ドイツ製のワイヤーロープを。」

クラウスは微笑み、ドリアンの首に手を回して引き寄せた。「同じぐらい恥ずかしいことを今から言うぞ。愛している。おれに絡まる蔓薔薇、大輪のイングリシュ・ローズをな。」



END

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