このサイトでは、「エロイカより愛をこめて(From Eroica with Love)」を題材とした、英語での厖大な二次創作群を翻訳しています。サイト管理者には原作者の著作権を侵害する意図は全く無く、またこのサイトにより金銭的な利益を享受するものでもありません。私が享受するのは、Guilty Pleasure - 疚しい楽しみ-だけです。「エ ロイカより愛をこめて」は青池保子氏による漫画作品であり、著作権は青池氏に帰属します。私たちファンはおのおのが、登場人物たちが自分のものだったらいいなと夢想 していますが、残念ながらそうではありません。ただ美しい夢をお借りしているのみです。

2012/05/15

FEET OF CLAY 07 A Bit Of A Problem - by Margaret Price


 
Fried Potatoes com -  FEET OF CLAY  07 A Bit Of A Problem
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Chapter Seven
A Bit Of A Problem - 見過ごせない問題






Zは何者かが迷うそぶりもなく待合室のほうに向かってくる足を聞きつけ、すばやく立ち上がった。「少佐。」彼は注意を促すように声をかけた。


少佐のまぶたが跳ね上がり、即座に目を覚ました。「なんだ?」


「何者かがこちらに向かっています。」


クラウスがドアのほうへ顔を向けると、伯爵の部屋からクラウスを人払いした医師が深刻な表情で姿を表した。医師はクラウスの向かいに腰を下ろし、Zをちらりと見た。クラウスは眉をしかめた。


「エージェントZは私の部下です。」少佐は無言の問いに答えた。「伯爵の関係者が到着するまでは、彼が患者の保護に当たります。」


医師はうなずいて息を吸い、ゆっくりと口を開いた。「病人の目覚めを待って、質問したいことがおありでしょうな。」


クラウスの眉が上がった。彼は自分がいつまでもここに居残っていられるような口実を思いついておらず、周囲がそれを都合よく誤解してくれるのを正直ありがたいと思った。


「実は・・・、すこし見過ごせない問題がありまして・・・」医師は続けた。


「伯爵の状態が悪化でもしたのですか?」少佐はたずねた。訊ねながら、内心の狼狽を必死に押さえ込まねばならなかった。医師は首を振った。「いえ、体調は安定しています。ただ、ただ患者は・・・。何も思い出せなくなっているのです。」


「それは、暴行を受けた件について?」


医師は再び首を振り、説明を始めた。ドリアンは服の着替えの最中に目を覚まし、どういう経緯で自分がその外傷を受けたかについて何一つ記憶が無いと言った。使用した麻酔の量と、それが完全には切れていないことを考慮すると特に驚くべき反応でもなかったので、医師はそのまま通常通りの質問を続けた。その結果、記憶の喪失が広範囲に及ぶことが判った。「今日の日付を聞いたとき、彼ははっきりとこう答えたのです。」


ドリアンの答えを医師の口から聴いた瞬間、クラウスは愕然とせざるを得なかった。それは彼ら2人が初めて山荘で待ち合わせたあの日の、その前日の日付だったからである。少佐が英国人を追い払おうとする'努力をやめて、ふたりが恋人となるより前の日付。馬鹿な。


「それは一時的なものなんでしょうな?」クラウスは自分がそう訊ねているのを他人事のように聞いた。


「なんとも言えませんな。」医師は答えた。「とにかくもう少しいろいろ検査してみないと。脳に外傷が無いかも考慮して再検査します。」


クラウスは背もたれに体を預け、たった今聞いたばかりの事実を脳裏で反芻した。世界が砕け散ってしまった今、何が残ったというのだろう。十年・・・、その十年が、たった数時間のうちに完膚なきまでに損なわれたのだ。あのアメリカ人どもを殺しておくべきだった。


「精神科医の診察を手配しておきます。」医師がまだ話を続けていた。「どうやら、単純な心的外傷による一時的な記憶喪失ではなさそうですので。」


少佐は立ち上がりながら肯いた。ドリアンの華奢な神経が受けたダメージを考えると、起こっても不思議は無いことだった。伯爵の精神は醜い暴行にひどく傷つけられたに違いない。だが、記憶の最後の日付がなぜあの日になっているのかは謎だ。


「差し支えなければ、患者と話をしたいのですが。」少佐は許可を求めた。


「少佐、彼はこの十年の記憶を失っています。」医師は再度念を押した。


「彼との面識は、それよりずっと以前からあります。」


医師は少し考え込み、そして肯いた。「あまり刺激しないようにしてください。」注意を付け加えた。「本人はショックを受けているようです。」


クラウスは何かいいたげな視線をZに向けた。Zは(この医師は何も知らないのだ)という表情で眉を上げたところだった。






* * *




少佐がエロイカの部屋に戻っている間、Zが門番に立った。


ベッドを隠していたカーテンが開いていた。少佐が部屋に入ると、伯爵は驚きの余りほとんど飛び上がらんばかりになった。彼はまだ横向きのまま、胸の下に枕を挟んで臥せっていて、少佐がベッドに近づいてくるのを目を見開いて見つめた。


「エロイカ・・・?」


ドリアンは彼を見つめ、うめき、それから目を閉じた。「行ってくれ、少佐。きみとやり合うには疲れすぎてるんだ。」それは全くその通りだった。言い終えるなり、彼は糸が切れたように意識を失った。




* * *




部下Aが状況報告のために戻ったとき、Zは何かの本を広げて伯爵のベッド脇におとなしく腰掛けていた。エロイカは眠っているように見えた。少佐はその部屋のもう片方のベッドに横たわっていた。


ドアが開くとZは顔を上げて本を置き、ドアに近づくとAと話すために廊下に出た。彼は医師の診察結果をAに告げ、少佐は伯爵が昏睡状態に陥る前に自分で質問したい事項があったのだと言った。


Aの報告は、部長の決定に関することだった。当初は別の担当者にこの件を任せるつもりでいたが、事件の現場があの”鉄のクラウス”が保有する不動産内だと陸軍基地が知るに至り、会議の場への少佐の参与を強く望んでいた。本来はAとBで担当しようと考えていたが、米国軍もまた同様に少佐の参加を希望していた。


GからAへの報告もあがっていた。Zが推測したとおり、Gは少佐のクローゼットに伯爵の身の回りの品を発見し、伯爵がまたフィレンツェでやったような悪戯を繰り返したと考えた。


Zは肯き、病室のドアをちらりとみた。「その報告を少佐に伝えるのは、伯爵の部下が到着してからでも遅くはないですよね。」彼は静かに言った。


Aは同意した。「そうそう、その件だ。ボーナムとコンタクトが取れた。」彼は少し考え、ドアを見た。「ボーナムに言って、伯爵のものを少佐の山荘からもって帰らせたほうがいいかな。少佐が山荘に足を運ぶ前に。」


Zは密かな笑みをこらえられなかった。「その件については、僕がボーナムさんにお伝えすることにします。」


「それがいい。」Aは深いため息をついた。「それにしてもなんてこった。なあ?」






* * *






エロイカは何度かぼんやりと目を覚ましたが、そのたびにまたすぐ眠りに落ちた。Zは指示通りの時間に少佐に声をかけ、Aの報告内容を伝えた。少佐はZにコーヒーと食事の調達を命じた。


Zが去って五分もたたないうちに、エロイカが目覚めた。彼はベッド脇に座る人影を見てうめいた。「なんて完璧な朝なんだ。きみが私の子守とはね。」そして目を閉じた。「で、嘲り笑うために来たのかい、少佐?」


その言葉は短剣のようにクラウスの心臓を刺した。今はまだ、二人の秘めた関係について触れる時期ではないようだった。「おれがそこまで下種だと思っとるのか?」少佐は穏やかに尋ねた。


「たちの悪い冗談だね。きみがあの薬で私に何をしたか、忘れたとは言わせないよ。」


クラウスは椅子に背を預け、息を吐いた。もう十年にもなる遠い昔の悪い冗談、それは確かに伯爵を罠にはめようとした悪質な計略だった。「ドクターは、おまえが記憶を失っていると・・・」クラウスはゆっくりと口を開いた。


エロイカは体の位置を変えようとし、痛みにたじろいだ。どんな鎮痛剤使っても、この痛みを和らげるのはほとんど不可能だった。「覚えてないね。あの呪うべき山荘できみと顔を合わせた場面で、私の記憶は途切れているよ。その次の場面はこうだ。目覚めたらここにいて、医者が私に『それは十年前の話です。』と言う。そして続けて言うんだ。『あなたはひどい暴行を受けています。』だとさ!」伯爵は吐き出すようにそう言い放った。


クラウスは視線を落とし、椅子の上で居心地悪げに身じろぎをした。ドリアンはそれに気づき、クラウスがこれまで性に関するいかなる話題についても不快感を隠さなかったことを思い出し、今もまたそうなのだと誤解した。


「私がどういう目にあったか聞いて、腹を抱えて笑ったんだろ?」エロイカはぞっとするような毒をこめてそう言った。「あの変態が、くわえ込みすぎてとうとう痛い目を見やがった、って。」


クラウスの目の焦点がカチリと合った。瞳の中で、怒りの炎が燃え上がった。「誰から聞いたわけでもない。おれ自身ががこの目で見た。」


エロイカは瞬きをした。「何だって?」


「おまえはおれの別荘で暴行を受けていた。おれが到着した、まさにその時・・・」少佐の言葉はかすれて消えた。彼は刺すような視線で伯爵を射た。「おまえが何をされているかわかった瞬間、おれは危うく奴らを殺しかけた。」


エロイカはあっけにとられて少佐を見つめ返した。「でもきみはそうしなかった。」


「ああ、殺さなかった。一人の顎を割り、もう一人の鼻の骨を折っただけだ。」


エロイカは茫然としたまま、怒りをあらわにした少佐の表情を見つめた。少佐はときに不思議なほど、誰かへの気遣いを見せることがあった。そして伯爵は今がそのときであることに感謝を覚えずにいられなかった。「少佐・・・、私を救ってくれたことに感謝するよ。きっとそれは・・・、きみにとって愉快な体験ではなかっただろうから。」


深い緑の瞳がドリアンの表情を捉えた。伯爵には、その瞳の奥にいわくいいがたい感情の波がさざめいているように見えた。自己嫌悪?かな・・・、たぶん。私を助けるなんて、虫唾が走るような作業だったにちがいないもの。そうだろ、少佐?ああ、私の十年は失われたと聞いたたばかりだけど、きっと何もかも何一つ変わってはいないんだ・・・。


「Aがボーナムに連絡を取った。」少佐は言った。「何か伝えることはあるか?」


エロイカは姿勢を変えようとして痛みに眉をしかめた。そのごろつきどもは私に何をしたんだ?「ずいぶん優しいね、少佐。」


「おれの別荘でおまえを襲撃し、殴打し、暴行を加えたのはふたりの米軍兵士だ。NATOの空軍基地からの脱走兵だ。」少佐は手短に言った。「担当医にはおまえがNATOの外部契約者で、身の回りの世話をする者が到着するまではおれが保護に当たると言ってある。」


伯爵は深く息を吐き、目を閉じた。「では、私の部下たちは早くここに着いて、さっさときみの我慢を解放してあげなくちゃね。」


「おまえとNATOが関連する件についてはおれが担当となる。この件が解決するまでは『我慢』する。」クラウスは立ち上がった。そうでもしなければ、目の前の男を腕の中に抱きしめてしまいそうだった。だがそんなことをすれば気が狂ったと思われるのが落ちだ。


エロイカは精一杯強がって見せた。「それって、きみの部下たちがかわるがわる面倒を見てくれるってことかな?」


「たぶんな。明日は警備のついた個室へ移るぞ。」


「私が逃げないように気をつけろよ。」伯爵は心にも無い冗談を言った。


クラウスは痛ましいものを見る目で伯爵を見つめた。もう逃げられたさ。おれはおまえを失ってしまった。彼はドアの方へ視線を転じた。「おまえの部下が到着するまでは、Zがおまえの面倒を見る。」


エロイカは体の下の枕を引き出してそこにもたれかかりながら、小さく不満を漏らした。「今の私は『健全なるドイツ青年』の脅威ではないと判断したわけだね。彼に私を担当させるなんてさ!」


* * *

2 件のコメント:

  1. 楽しんで拝読しました。
    きゅんきゅんってどんな感じなんだろうかと思って。

    こんなことがあったらどうするのかなーって想像すると、やっぱり伯爵ファン的には密かに笑えちゃったりします。
    少佐ってなんか普通にかわいー男だ。こういう少佐が好きだ。
    無理せず続きをよろしくお願いします。

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  2. そういえばきさらぎさん好みかも! 伯爵は美しく受けてるし、少佐はふつーのかっちょいい男だし。

    わたしは少佐みじめ萌えなので、意地悪つんけん伯爵にいろいろ言われて一言も返せないあたりがたまらなく萌え萌えなのです。素晴らしいシチュだわこれっ。さっさと仲直りなんかせずにいつまでもこのままだったらいいのに。そんで目の前でQにとんびに油揚げさらわれたりしたらもっといいのに。(そんな話じゃありません)

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